全国町村会

田んぼアートを活用した“地域おこし”

田んぼアート「一寸法師」

 

福島県鏡石町

3025号(2018年1月8日)  鏡石町長 遠藤 栄作

鏡石町の概要

♪ ただ一面に立ちこめた 牧場の朝の霧の海 ポプラ並木のうっすりと  
黒い底から勇ましく 鐘が鳴る鳴る カンカンと・・・♪

誰もが一度は聞いたことのある、唱歌「牧場の朝」。そのモデルとなった鏡石町は、福島県中通りの中南部に位置し、面積が31.30平方キロメートル、東西7.7q、南北7.5qの平坦でコンパクトな町です。福島空港や国道4号線、東北縦貫自動車道鏡石スマートインターチェンジ、JR東北本線鏡石駅といった高速交通体系にも恵まれています。

年間の平均気温がおよそ18度と内陸性の温暖な気候に加え、豊かな水資源と肥沃で平坦な耕地が広がる地の利を活かし、古くから水稲や野菜、果樹、畜産などが営まれてきました。現在では、特に米、きゅうり、いちご、りんごといった品目の生産額が多く、「岩瀬きゅうり」や各種果樹の産地として知られています。一戸当たりの農業所得が福島県内でもトップクラスを誇るなど、農業が主要産業の1つとなっています。

最新の第20回国勢調査の確定値では、本町の人口は前回より2.6%の減少となったものの、15歳未満の人口の割合が県内で1番高いという結果が出ました。また、町の中央に位置するJR東北本線鏡石駅を中心として、半径1.5q圏内に人口の7割以上が居住していることから、駅を中心とした「コンパクトで住みやすく、若い世代の多いまち」であると言えます。      

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田んぼアート

このような地域の特性を活かし、農業の普及啓発と駅を中心としたまちなかの活性化を図るため、また、農業と観光が連携した新たな観光スポットを創出するため、「田んぼアート」が計画されました。

「田んぼアート」とは、コシヒカリなど食用のお米とは異なる色のついた古代米や観賞用の稲を使い、田んぼをキャンバスに見立てて絵を描き出すものです。

もともと田んぼアートは、青森県田舎館村が村おこしのひとつとして平成5年(1993年)に始めた試みで、当初は「稲文字」として始められました。平成16年(2004年)から遠近法が活用され、巨大なアートがより芸術的になり、平成23年(2011年)には「第15回ふるさとイベント大賞」を受賞し、農業と観光が連携した取組が高く評価されました。

現在は、全国各地で個人や団体によって、約200箇所を超えるといわれる田んぼアートが手掛けられており、地元住民の結束力を高める地域行事、田植えや稲刈りなどの農業体験、収穫したお米を活用する6次化産品などの話題性から、近隣や遠隔地まで多くの観覧者等を呼び寄せる新しい観光資源の創出として取り組まれています。

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これまでの経過

本町では当初、田んぼアートは平成23年度の新規事業として計画されていました。しかし、東日本大震災により、事業を予定していた水田に通水するための水路が破損したため水を確保することができず、中止を余儀なくされました。さらに、原子力発電所の事故により、放射線による影響が懸念されたことで、次年度以降の実施も危ぶまれていました。

その後、1年をかけて水路の復旧や水田の除染に伴う土壌改良が行われ、稲の作付けが可能となったため、平成24年度には1年越しの実施にこぎつけることができました。その際に、「復興のシンボル」となるよう願いを込め、先進地である青森県田舎館村や山形県米沢市からアドバイスを受けながら、約50aの水田に合計4色の稲で唱歌「牧場の朝」をテーマに初めて田んぼアートを描きました。

鏡石町の田んぼアートは、町図書館のすぐ隣のほ場で行っており、町図書館4階の展望室から見下ろすことができます。遠近法を活用することにより、4階の展望室から見下ろした時にだけ、美しい絵柄を見ることができるのです。遠近法を活用した田んぼアートを実施しているのは、福島県内では鏡石町だけです。

田んぼアートのほ場は駅のとなり

また、図書館から眺められることから、2年目以降は「窓から眺める絵本〜もう一つの図書館〜」をコンセプトとし、絵柄を「童謡・童話シリーズ」として毎年展開しています。2年目の桃太郎から始まり、金太郎、浦島太郎、かぐや姫、といった絵柄で進めてきました。そして、6年目を迎えた平成29年(2017年)は、「一寸法師」をテーマとした絵柄で作成しました。

また、平成29 年は本町が町制施行55周年であることから、町制施行55周年記念事業として、前年より18a面積を拡大した約70aの水田にアートを描きました。さらに、使用する稲の種類も増やし、6色7種類の稲を使って実施しています。

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地元高校生ほか、多くの方の協力

田んぼアートは多くの方の協力によって成り立っています。特に地元の高校である県立岩瀬農業高等学校の生徒(以下、岩農生)の協力は不可欠です。岩農生には、田んぼアートの作成において大変重要となる「稲の育苗」と、図柄を点で結ぶための「測量作業」において、授業の実習として全面的な協力をいただいています。今日まで田んぼアートを継続することができたのは、岩農生の協力あってこそです。岩農生としても、田んぼアートを通して社会と関わりながら学ぶことでより実りある実習となっているなど、双方によってより良い形での連携が取れています。また、高校生との連携は話題を呼び各種メディアに大きく取り上げられたことで、観覧者の増加にもつながっています。

岩農生による種蒔き

岩農生による測量作業

田んぼアートは、様々な色の苗をそれぞれ決められた場所に植える必要があるため、田植えはすべて手作業です。また、稲刈りも、様々な色の稲穂が混ざらないように手作業で行います。50a(平成29年は70a)もの水田での作業を手作業で行うには、多くの方の協力が必要です。そこで本町では、毎年5月下旬の田植えを「豊作祈願田植え祭り」として、また、10月上旬の稲刈りを「豊作万歳稲刈り祭り」として、それぞれ参加者を募って実施しています。これらのイベントには、鏡石町民や県内外からの一般の参加者と関係者約300名の方に参加いただいています。

豊作祈願 田植え祭り

保育所での田植え体験

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“観せる”から“食べる”、そして“輝る”田んぼアートへ進化

田んぼアートの緑色の部分には食用米福島県オリジナル品種「天のつぶ」を使用し、収穫したお米を「田んぼアート米」として活用しています。稲刈りイベントの参加者の昼食に特製おにぎりとして振る舞うほか、町内の小中学校や幼稚園・保育所の給食に提供しています。田んぼアートに関連し、幼稚園・保育所に出張して田植え体験を行うなど、「食育」の取組も展開しています。

また、田んぼアート米を米粉にし、町内のパン屋さんではこの米粉を使用した米粉パンやパウンドケーキを開発・商品化し販売しています。

ここでも岩農生に協力をいただき、米粉を使用したマドレーヌなどの洋菓子を製造するなど、6次化事業にも取り組んでおり、それまでの“観せる田んぼアート”から“食べる田んぼアート”へと、新たな展開を図っています。

岩農生が開発した米粉のマドレーヌ

そして前年度からは、「窓から眺める絵本:観せる田んぼアート」をさらに進化させました。田んぼアート事業の新たな取組として、LEDを活用したイルミネーション「〜きらきらアート〜」を初めて実施しました。

このきらきらアートは、町内の小中学生、岩農生の皆さんの願いを込めた「将来の夢メッセージカード」を挿入したLED装置「ペットボタル」を希望の苗として約4,200本を設置し、これに約4万5,000個のLED電飾を加え、稲刈りの後の田んぼで絵柄をイルミネーションにより再現したものです。

“輝る田んぼアート”として冬の夜でも田んぼアートの観覧を楽しんでいただけるようになりました。

きらきらアート

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課題

田んぼアートは年々観覧者数が増加し、平成28年度には2万2千人を超え、平成29年は3万人を超える方が訪れています。観覧する多くの来訪者が鏡石町内や近隣市町村の観光地、商店街へ足を運ぶことで、交流人口の増加による相乗効果が生まれ、地域活性化にも繋がっています。

このように田んぼアートに魅せられて県内外から多くの観覧者が訪れます。この集客力を活かして、町での滞在時間の増加、町内飲食店の利用等へどうつなげるか、手段を検討する必要があります。

また、観覧者の増加を図るためには、図柄のスケールアップと使用する稲の色や種類の増加による総合的なレベルアップも必要となります。

このような課題を改善していくことがさらなる交流人口の増加につながります。それにより着地型観光・旅行や6次化産業への取組に拍車がかかり、町全体の活性化につながっていくものと思います。

鏡石町には何があるのか、何か美味しい食べものはあるのかを連想させるような仕掛けの検討、来訪者が周遊したくなるような、鏡石町の“おいしいもの”を活用した6次化産品の開発など田んぼアートを起点とした地域おこしや、これまで関心の薄かった観光分野と盛んである農業が連携することによる地域特性を活かしたブランドづくり等、そこでしかできない付加価値が付けられるものを地域住民と考え、組織が共同したプラットホームを構築する必要があります。

田んぼアートからの戦略は、観覧するだけの田んぼアートではなく、体験や食を通じての取組、そして、原発事故からの風評被害の払拭を目的とした話題性と問題解消へのチャレンジです。

これからも田んぼアートを継続し、地域と連携した鏡石町の復興のシンボルとして、地元町民はもとより県内外からの多くの来訪者へ感動とインパクトを与えていきたいと考えています。なぜならば、それが鏡石町の特性を活かした最良の「地域おこし」だからです。

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