全国町村会

自然・文化を生かした交流による活力と心豊かな暮らしのある村
〜山里の「智」と「技」から創造する持続可能なむらづくり〜

  

日本の棚田百選:竹地区の棚田


福岡県東峰村

2776号(2011年10月10日)  総務課長 泉 和隆

村の概要

東峰村は福岡県中央部の東端にあって、大分県との県境に位置し平成17年3月に旧小石原村(1,190人)、旧宝珠山村(1,711人)の2村が合併し総面積51.93平方キロ、世帯数約940戸、人口約2,900人の村として誕生しました。当時は、村同士の合併で人口も少ないため日本一小さな合併とも言われました。

総面積のうち山林・原野が86%を占め、村を囲むように標高500mから900mの急峻な山地が迫り、その豊かな森から生まれる流れは大肥川となって中央部を南へ貫流し、大分県を経て福岡県へ流れ出ます。北部にある小石原盆地からは小石原川となって西へ貫流し福岡都市圏の水瓶、江川ダムの水源となっています。これらの川は、いずれも筑後川に合流し遠く有明海へ注いでいます。

村の北部には、日本三大修験場として栄えた英彦山修験道の修行場が点在し、小石原地域は行者や信者の集まる宿場町として栄えていました。往時修験者が峰入りする際、杉の穂を植える慣わしによって植栽された樹齢500年を越える杉の巨木群が行者杉の名で親しまれています。

また、分水嶺の釈迦ヶ岳(844m)、大日ヶ岳(830m)といった山々は山を神聖視し崇拝の対象とする山岳信仰に因んだものと考えられ、ふもとの岩屋神社には修験に関する遺構のほか周辺には凝灰質角礫岩などが織りなす奇岩が数多く点在し、希少な植生とともに県の天然記念物に指定され一帯は耶馬日田彦山国定公園の一角を担っています

村の産業は、第一次産業(農林業)、第2次産業(製造業)が中心となっています。農業は、小石原盆地を除き谷あいの傾斜地に耕作面積が狭い田が規則的に集積し棚田を形成しています。古いものでは約400年前に造られていたと考えられ、まさに日本の原風景とも言える景観を呈しています。

製造業の分野では、約350年以上の歴史を持ち藩の御用窯として繁栄した高取焼や小石原焼の製陶業が中心となっています。かつては世襲制で英彦山参拝の土産用徳利や大型カメ、鉢などの荒物づくりが主流でしたが、後に「用の美」を唱えた柳宗悦、バーナードリーチ(英国)らによって全国に紹介され生活雑器へと転換し、昭和50年に伝統的工芸品に指定され独特の装飾技法を50数軒の窯元が伝統を守りながら現在に伝えています。

   

行者杉・大王杉(樹齢約600年、樹高55m、幹回り8.3m)

   

小石原焼飛びかんな大皿

   

高取焼:水差し

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ICTを活用した地域活性化の取り組み

(1)背景

東峰村は、福岡県内で唯一ブロードバンドゼロ地域でしたが、平成18年3月、当時の麻生福岡県知事の「移動知事室」で東峰村を訪れた際に、村民がその現状を伝えたことが大きなきっかけとなり、福岡県や慶應義塾大学と連携のもと、同年11月にITによる東峰村の活性化戦略研究会(東峰村元気プロジェクト)を発足し、情報技術を活用した地域課題の解決に向けたリーダー育成を目標に掲げ、@住民ディレクター(映像制作プロセスを通じた総合的な企画力の養成)、Aインターネット市民塾(いつでも、どこでも、だれでも講師、受講生になれる学びの共同体)、B鳳雛塾(地域をテーマにした教材を活用したディスカッション教育による戦略的思考の涵養)の3つの情報化プロジェクトに取り組んできました。

平成20年3月に公設民営方式により、念願のブローバンド(ADSL)が敷設され、これまでの取り組みを継続的・自立的なものとするため、バーチャルとリアルの関係を融合させるメディアカフェ構想を打ち出し、平成20年8月に地域SNS「トーホー Media Cafe」をネット上に開設し、平成21年3月に人々が集い交流を行う場「東峰メディアカフェ」をオープンし、住民ディレクターや東峰そんみん塾で制作したコンテンツを登録・発信するとともに住民相互の交流促進を図ってきました。

(2)事業の目的と経緯

ADSLによりブロードバンドゼロ地域は解消されたものの、中継局からの距離により通信速度の遅速が発生しユーザー間の不公平感が生じてきたこと、加入者が増加し、中継局の許容範囲が不足してきたこと、また、平成23年7月の地デジ完全移行に伴い、村内の4%%の視聴を占める共同視聴組合が地デジ対応を迫られていたことなどを踏まえ、国がユビキタスネットワークの整備を進める中、情報通信は、電気や水道と同じく生活に密着した重要なインフラ整備と位置づけ、平成22年度に村内全域を対象に、光ケーブル網を構築しました。

ケーブルテレビは、全世帯に敷設し、地上デジタル放送をはじめとする衛星デジタル・FM放送の多チャンネルサービス、また、自主チャンネルを「とうほうテレビ」と称し、行政情報や各団体などのお知らせのほか、村のイベントや地域の催しなどの番組を提供しています。番組制作は、これまでの取り組みを活かして、役場職員と住民が連携・協力して、親しみのある番組づくりに努めています。また通信の分野では、IRU方式により村内全域で光インターネットを利用することができるようになっており、現在では、全世帯の3分の1にあたる約300世帯でサービスを利用しています。また、情報通信を活用した安否確認システムを導入し、独居高齢者を行政・地域・家族が一体となった見守りシステムに取り組んでいます。

(3)今後の展望

情報通信の分野は日々進化し、新しいサービスが展開されていく中、住民福祉の向上、地域経済の活性化、行政サービスの効率化を図る上で、ICTの効果的な利活用が今後さらに重要になってくると思われます。村では、これまでの取り組みを踏まえ、地域SNSやケーブルテレビ事業の長期的な安定運営を図るとともに、医療、福祉、防災、教育分野など村民の生活に深く関わる様々な分野において、ICT利活用の検討を進めてまいります。

   

SNSサイト「トーホー メディアカフェ」

   

とうほうテレビの収録状況

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小中一貫校「東峰学園」の開設について

(1)背景と経過

東峰村には、町村合併以前の昭和59年に学校組合立として統合された東峰中学校と旧村ごとに小石原小学校、宝珠山小学校の2校がありました。過疎化にともなう児童数の減少が問題となり、平成18年10月に「東峰村保・小中一貫教育審議会」を設置して、この問題を審議することになり、2年半にわたり審議を重ねた結果、平成21年3月に、「小中一貫校を平成23年4月に東峰中学校の施設を増改築して開校することが望ましい」との報告書が出され、村も同報告書に沿った形で小中一貫校の開設に踏み切りました。

同年6月には、学校づくり部会、学校教育部会、広報部会、事務局会から成る小中一貫校開設準備委員会を設置し、どのような学校を建設するのかについては、学校づくり部会で協議し、住民アンケートや専門家の意見を取り入れ、平成21年12月に基本設計を、翌22年6月には、実施設計が完了し建設工事に着手しました。また同時進行で校名、校歌、校章、制服、通学路、閉校式、開校式も同部会で協議。教育目標、学校経営全般については、学校長を中心とした学校教育部会で取り組み、各部会の経過報告については、広報部会でとりまとめ「広報東峰」に掲載し、各部会がスムーズに運営されるよう事務局会が連絡調整を行い、各部会で作られた各種の提案は、開設準備会で最終的な決定として承認を得ながらの進行となりました。平成23年2月末に校舎が完成し、3月に数度にわたる引越、統合される小学校の閉校式、そして4月に小中一貫校開校の運びとなりました。短時間の内に多くのことを協議・決定し、実行しなければならない非常にタイトなスケジュールの中での事業実施でした。

(2)事業実施にあたっての課題

過疎地域にとって学校は、地域アイデンティティの要となる施設であり、学校だけは残して欲しいと言う地域の強い思いがありました。しかし一方で、児童・生徒の減少によって十分な教育環境の提供が、ますます困難になって行く状況であり、非常に難しい判断の中での、今回の一貫校開設でした。東峰学園開校後、いろいろな所から視察の依頼がありましたので、視察の理由をお聞きしたところ、過疎地域に限らず、多くの自治体で同じ悩みを抱えていることが分かりました。人口が少なくなっていく状況の中で、これまでどおりの体制を維持していくことは、とても難しい時代となったことを痛感させられました。

(3)展望

小中一貫校「東峰学園」は、まだ始まったばかりで、学校づくりはこれからが本番です。幸いなことに、この事業の推進母体であった一貫校開設準備委員会から、開校後も学園を守り育てていく組織が必要ではないかと言うご意見を解散時にいただき、今年6月から東峰村教育推進協議会を発足しました。児童・生徒だけでなく、学校、家庭、地域の皆さんが一体となって、すばらしい学校づくりを目指しています。

   

小・中一貫校 東峰学園「小学校・中学校一緒の入学式」

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地域資源を活かした村づくり

東峰村は年間約90万人の入り込み客数を数えています。その内、春と秋に開催する民陶むら祭には、合わせて約14万人の観光客が数日間に訪れます。その他、棚田や修験などの歴史的遺構やキャンプ場などの交流施設、ホタルや湧水などの自然環境にも恵まれ、百選に指定された観光資源も村内に点在しています。

村の観光を支える小石原焼・高取焼は、県内の小学校で伝統工芸品の学習教材として教科書にも掲載されています。そのため小石原伝統産業会館には、年間約8,000人の児童が訪れ陶器の歴史を学び陶器づくりをとおして「技」と「人」に触れ、自分たちの普段の暮らしとの関わりなどについて学ぶ“学習の場”としても活用されています。また、年間を通じて素焼きの皿に絵付けをする“絵付け体験”から本格的な陶芸教室まで自分に合った体験メニューを選択できるなど体験型観光にも力を入れています。平成20年6月に環境省から平成の名水百選に選ばれた「岩屋湧水」は、JR日田彦山線の釈迦岳トンネル(4,378m)の中央付近からトンネル掘削の際に湧き出た水で、日量15,000tの湧出量があり1年を通じて安定していることから昭和38年から村の簡易水道の水源としても利用しています。この水は硬度30度の軟水で、まろやかな口あたりからお茶、コーヒー、に適していると多くの方が水汲みに訪れるようになったことから、平成14年に無料の水汲み場をJR筑前岩屋駅前に整備したところ、一部の利用者が大量の水を汲むことによる場所の独占や路上駐車による通行の妨げなどのトラブルが地元の方と度々発生しました。そのため、自動給水機を設置し、紫外線殺菌による安心・安全な水の提供を行うと伴に有料化に踏みきったところ、水汲みマナーの向上が図られトラブルを解消することができました。今後は、この湧水を更に活用した地域振興策に取組んで行きたいと考えています。

村にはJRの駅が3つあります。戦後から昭和38年頃まで村は炭坑で栄え石炭搬出のために鉄道が敷かれ坑口近くには駅が建設されました。石炭産業の恩恵のひとつと言われる鉄道の中でも県境に位置する宝珠山駅のプラットホームは3分の1が大分県に位置するため九州で唯一、県境がとおる駅として知られています。

また、縦貫するJRの駅舎間には4つのめがね橋があり、その内3つが九州の近代化遺産に指定されています。年末年始にはライトアップが行われ、澄んだ夜空に浮かび上がる幻想的な姿は、まるで「銀河鉄道」を思わせると写真愛好家もその時期には多く訪れます。

棚田百選一帯は、美しい日本の歴史的風土準百選「竹地区の棚田及び岩屋神社などの山岳信仰遺跡群」にも指定されています。何でも願いが叶うと言われている不思議な玉「宝珠石」をご神体に持つ岩屋神社の創建は西暦532年と古く、古来より多くの人の願いがご神体には込められています。境内は奇岩群と窟群(岩穴)で形成され、その中で7つの奇岩と3種類の植物が県の天然記念物に指定されています。神社本殿は大岩の窪みを利用して造られた内殿の前に薦に包まれた、ご神体の宝珠石が祀られている珍しい形式として国重要文化財に指定されました。この一帯は近年パワースポットとしても静かに注目されています。

   

小石原地区皿山・小石原焼きの天日干し

   

国重要文化財:岩屋神社本殿

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おわりに

村では、先人達が自然の恵みから豊かな価値を生み出し育んできた「智」と「技」を今に継承し、地域の特性や伝統を活かし精神的にも、また経済的にも豊かさを感じることのできる満足度の高い暮らしを創造していくことを目的として「智に学び誇りの持てる村」、「技を交流に活かした豊かな村」、「智と技を活かした人材の育つ村」をキーワードとして持続可能な村づくりを基本理念としています。

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