全国町村会

「木」をキーワードに、都市と農村の交流で町の活性化を
―植えて育てる林業から、伐採し、活用し、植える林業へ―

  「木の産業」の源である、国宝「法華経一品経」を有する、都幾山慈光寺


埼玉県ときがわ町

2768号(2011年7月25日)ときがわ町長 関口定男

ときがわ町は、首都圏に近い「木のまち」

ときがわ町は、埼玉県の中央部に位置し、都心から60キロメートル圏内と、比較的都心に近い場所にあります。

町の面積56平方キロメートルのうち7割が森林であり、その森林の多くがスギ・ヒノキなどの針葉樹で、この材料を利用した建具産業に代表される木材関連産業を中心に発展してきた町です。

この産業の発展の源は、埼玉県でも数少ない国宝である「法華経一品(いっぽん)経」を有する、「慈光寺」にあります。良材のあるところに名刹あり。鎌倉時代、寺の建立のために各地から呼び寄せられた「番匠(ばんじょう)」と呼ばれる大工などの木工職人たちがこの地に定住し、彼らの優れた技術と地元の良質な森林資源を基に起こしたのが、建具産業であると言われています。

平成18年2月、都幾川村と玉川村が合併して、人口約1万3千人のときがわ町が誕生しました。今回は、合併後のまちづくりの施策と、森林資源を活用する「木」を活かした町の活性化への取り組みをご紹介します。

   

 木質化した学校の廊下

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「ときがわ方式」による公共施設の内装木質化

合併前の玉川村では、民間企業の経営に対する考え方をいち早く導入し、バランスシートにより財政の健全化に努めてきました。その手法は合併後のときがわ町にも生かされており、平成21年度決算で実質公債費比率は3.5にとどまっています。

合併後、これまで財政的理由で未着手であった公共施設の耐震化工事を、合併特例債を有効に活用し、順次実施しているところです。これらの工事、特に小中学校の大規模改造には、ときがわ町政運営における「イノベーション(意識改革)」、「オリジナリティ」、「ローコストマネージメント」の3つの理念と、町の森林資源を有効に活用する「ときがわ方式」が生かされています。

■森林環境と教育環境を同時に改善

ときがわ町では、面積の7割を占める荒廃した山林の再生が、懸案事項のひとつでした。全国的にも戦後造林された人工林が資源として利用可能な時期を迎える一方、木材価格の下落等の影響などにより森林の手入れが十分に行われなくなった結果、二酸化炭素吸収機能、水源かん養、土壌保全など、本来森林が持つ機能の低下を生じさせています。

森林の本来の機能を取り戻すためには、適切に木を利用することが必要です。そのため、地域の森林資源を積極的に小中学校の内装に用いるなどの「公共施設の内装木質化」に平成12年度から取り組んでいます。この教育環境の整備方法は、子どもたちが日々の生活を送る校舎にぬくもりと、いやし効果を持つ素材「木」を取り入れることで、学校の雰囲気が落ち着き、教育再生の一助になるのと同時に、地域産材の活用による伐採と植林のサイクルが一定のリズムで行われ、その結果山林の活性化が促進されることを狙ったものです。

    

ツルが巻き付き、枝打ちもされていない荒廃した山林

■「ときがわ方式」の教育環境整備

戦後全国に建てられた小中学校の校舎のうち、80%以上は鉄筋コンクリート造で、この種の建築物の寿命は50〜60年といわれています。これらの校舎は、建替えあるいは改修の時期が迫りつつありますが、安全面を考慮しつつ、最も経費を抑えた改修方法として、耐震補強を施し、外壁を塗り替え、屋上の防水加工を行い、同時に内装も木質化をすることで新築同様の「木の学校」として校舎は生まれ変わります。

仮に木造新築の学校を建築した場合、1校で10億円以上の経費がかかるそうです。これに対してときがわ町の手法では、新築1校に満たない金額で、財政を圧迫することなく木造小学校1校と、鉄筋コンクリート造の小学校2校、中学校2校をリニューアルすることが出来ました。この地域産材での内装木質化と耐震改修による教育環境の整備は、「ときがわ方式」として注目されています。

建替えと比較して低コスト、短期間で実施可能なこの方法は、夏休みの期間に工事を行い、新学期に生まれ変わった校舎で子どもたちを迎えることのできる、新たな木の学校づくりのモデルとなっています。

    

ときがわ産材で生まれ変わった、都幾川中学校体育館

■重要な山林の循環サイクル

教育施設の内装木質化は、木材の持つ調湿機能による健康面への効果や安全性の向上などに効果が見られました。また、役場庁舎や公民館の内装木質化、木造の地域集会所や観光施設、庁舎内のサイン類や町職員の名札に至るまで、「木づかい」にこだわっています。

木材を資材として積極的に活用し、伐採後は針葉樹と広葉樹をバランスよく混交林として植樹すれば、水のかん養、二酸化炭素の吸収効果等が期待されます。こうした「伐採し、活用し、植える」という山林の循環のサイクルを確立することは、川の上流部の私達にとっても、下流部の都市部の人たちにとっても、非常に重要です。

公共建築物木材利用促進法の施行に伴い、ときがわ町では埼玉県内の自治体では初となる「町有施設の木造化・木質化等に関する指針」を策定し、さらなる林業振興を推進しようとしています。「植えて育てる」林業から前進するため、木材を供給する川上と、消費する川下の結びつきを強化し、木材全体の需要拡大に取組みたいと考えています。

    

森林再生には、木を適切に使うことが大切

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観光入込客数100万人を目指す

■都心に近い田舎の利点を活かして

ときがわ町は、都心から日帰りできる、都会から近い「田舎」です。田舎であることは、見方を変えれば田舎であることの一つ一つの要素が重要な資源にもなります。

町では、手軽に田舎を楽しんでいただく施設を中心に整備を進めています。ときがわ町の観光は、観光事業者が観光商品を開発する「発地型観光」ではなく、地域と行政が自らの発想力と想像力で地域固有の観光商品を開発する「着地型観光」です。地元のお母さんたちの指導で伝統食であるうどん・そば打ちが体験できる施設、澄んだ空気の中で星空観測を楽しめる施設、清冽な水をたたえた渓谷のほとりで温泉入浴が楽しめる施設。これら町が整備した観光施設は、どれも環境の良い田舎であることを資源として捉え、地域の人的資源をも活用し、東京から近いことの優位性に着目した、都市と農村の交流体験型の施設です。

    

渓谷のほとりに古民家のたたずまいの日帰り温泉施設「四季彩館」

■原木キノコを特産品に

近年ときがわ町では、新たな特産物づくりとして、原木栽培によるキノコの生産に取り組んでいます。特に、これまで不可能とされてきた針葉樹であるヒノキ原木からナメコを発生させる技術は、豊富にあるヒノキ間伐材の有効活用として期待されています。

生産したナメコ、マイタケ、シイタケなどのキノコ類は、町内にある4か所の町有直売施設で、主に観光客に対して販売されるほか、町内のうどん店やそば店などで味わうことができます。原材料の原木調達から栽培地である山林、販売施設や飲食店などキノコ流通の一連の流れが、ときがわ町内で完結できます。これも、都心に近い田舎ならではの利点です。

    

ヒノキ間伐材に発生したナメコ

■サイクリストを「客」に取り込め

2004年の埼玉国体で、ときがわ町は自転車ロードレース大会のコースの一部になりました。国体終了後、コース上で最大の難所である「白石峠」は、サイクリスト達の間で「聖地」のごとく扱われるようになり、折からの自転車ブームで週末は白石峠を目指すサイクリスト達で賑わいます。どこから来たか聞くと、「東京の○○区から走ってきました」との返事は珍しくなく、私たち地元の者を驚かせます。

しかし、生活道路の自転車交通量が増えると交通事故の発生が懸念され、交通の妨げになるルールに反した走行は、地域住民にとっては迷惑なものとなります。今後は、自転車のマナーアップを呼びかけた上で、これまでただの通過者であったサイクリスト達に町内の店舗や温泉入浴施設を利用してもらえる仕組みを整え、「お客様」としてもてなしていこうと考えています。

これら様々な手段を講じて、平成22年度の時点で90万人である観光入込客数を、28年度までには100万人にまでに拡大することを目標に、努力しています。

    

難所「白石峠」に集うサイクリスト

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合併後の基盤整備の推進

■町が主体的に情報通信基盤を整備

ときがわ町は、民間事業者による高速通信環境の整備が遅れており、町内でADSLですら利用できない地域がありました。このため、若者の間では生活する上で欠かせないものとなっている、インターネットを利用できない地域が存在していました。少子高齢社会を迎えているときがわ町にとって、若年層の町外への流出を食い止めることは、重要な課題です。「インターネットが利用出来ない町には住みたくない」という若者たちの言葉に触発され、合併特例債を活用し、町が主体的に光ケーブルを敷設し、民間事業者に貸し出す公設民営方式で、情報通信基盤の整備を実施しました。

この光ケーブル網を活用し、町からの情報発信ツールとして、NTTの「光iフレーム」の端末を利用し、ツイッターの技術を応用した「iかわらばん」と呼ばれるタッチパネル式の情報端末を町民や町内事業者に貸し出し、利用していただいています。町からのイベント情報、観光情報などの行政情報はもちろん、端末を借り受けている町内の商店などが発信する売り出し情報などについても、文字と写真で「iかわらばん」利用者に情報発信しています。

    

iかわらばんの情報端末

■バス体系を「ハブ&スポーク化

合併により町の面積が拡大したことにより、町民のバス路線へのニーズが多様化し、単に町内にあるJRの駅への輸送だけでなく、より利便性の高いとなり町にある私鉄駅への接続が求められるようになりました。

公共交通機関であるバス路線の充実は、通勤通学者の足を確保する事、高齢者が住み慣れた自宅での生活を継続させる事などの点で大変重要であり、単なる利便性の向上のみでなく、少子高齢化対策の重要施策でもあります。

町では、「公共交通活性化協議会」を立ち上げ、町民代表や大学の有識者、バス事業者など、多角的な見地からバス体系の在り方を検討しました。その結果、「ハブ&スポーク方式」を採用したバス体系へ一新することになり、バスセンターを中心に放射状にJR系1駅、私鉄系3駅へのスムーズな接続を可能にしました。

バス体系の再編成と同時に、山間部であるため大きなバスが入れない地域にも、きめ細かくバス路線を設定できる「デマンドバス」を導入、さらに、高齢者にもわかりやすいゾーン料金制を導入した結果、5月の時点でバス利用者が対前年比15%の伸びとなりました。

    

ハブバス停。すべてのバスは、ここから放射状に目的地へ

    

山間部をきめ細かく走るデマンドバス。町民の関心は高く、利用説明会には多くの人が訪れ、職員の説明に耳を傾けた。

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おわりに

ときがわ町の重要課題である少子高齢化に歯止めをかけるためには、通信環境整備、バス体系の一新などに代表される生活基盤整備の次の手立てが必要です。

今後は、町の森林資源を活用し、森林整備と木材の利用、それぞれの産業における雇用の創出のための事業を実施し、併せてそれらの産業に就業を希望する若者が、ときがわ町に定住化するための住居を確保する事業を実施して、課題の解決を図っていきます。

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