全国町村会

島への移住支援に求められること〜サポセンの取り組み〜

鹿児島県・南種子町

2762号(2011年6月6日)種子島U・Iサポートセンター 事務局長  西 豊

移住を決意させる理由から考えてみると

サポセンは平成15年以降、種子島へ移り住む人々への支援を行ってきた。初期の目的及び活動内容は、住宅の貸し借りにおけるトラブルの防止や下見などの際の円滑な情報収集のための関係者紹介等を行う情報提供であった。

具体的に言えば、借り主が又貸しを行ったり、長期に渡って家賃を滞納したり、反対に家主が借り主に改装費を負担させ、改装が終わり次第追い出したりするといった事例が続いたため、その防止策として、借り主になる移住者には注意喚起を、家主になる地元住民には賃貸契約を交わすように強く勧めるなどの活動である。

    種子島宇宙センター


    海上から島を観察


さらに本土から種子島へ移り住もうとする人たちが「移住」という行為を思いついた理由についても考えてみることにした。例えば都市部などに住んでいる人がなぜ遠くの地方へ移り住もうとするのか、そこに何らかの理由があるのだろう。

そこで種子島への移住を希望する人たちからの電子メールによる問い合わせのやりとりや、下見に来てもらった時の面談時を利用して聞き取り調査を行った。建前とも言うべき表面上の理由は、メディアで取り上げられる写真や文章が綺麗な風景や癒しを感じさせるような文章であるからだろうが、「自然を感じて暮らしたい。」や「自然の多い地域で子どもを育てたい。」、「田舎でのんびり暮らしたい」、「毎日サーフィンを楽しみたい。」などに分類された。もちろんこれらの理由も全くの無意味という訳ではなく、これはこれで彼らの希望の一面であることは確かである。

    パラグライダーで丘を越える


    シーカヤックで海上洞窟へ


従って、これらの要望に添うような移住後の計画例を示すことで、より具体的な、より詳細な移住計画が作られるよう支援してきた。しかし、これだけでは解決できない問題が残ったのである。転入の数自体は増やせるものの、家主や職場、近隣の人々とのトラブルなどから、元の地へ戻るケースも数件に一件の割合で発生した。相談内容が深くなった時点や移住後の相談時における転入者本人の経済的な事情、移住以前の仕事の様子や家族・友人たちとの付き合いなどの聞き取りや移住後に周囲の人々との付き合い方、話し方などを観察すると、他人との付き合い方、交渉の方法などにおいて、思慮が足りない、拙いとみられる場合が頻繁に感じられた。

職場を急に辞めてみたり、簡単に前言を翻したり、世話になった人にも何も伝えず転職や引っ越しをしてみたり、役場に見当違いなクレームを持ち込んだりと、自分の行為や言動が周囲の人々にどのような影響を与えるのかが想像できていない場合が目立つ。つまり「サーフィンを楽しみたい。」あるいは「自然に囲まれて生活したい。」などというような願望以前に、住んでいる地を離れたい、もしくは居られないという事情が垣間見える。この核心とも言える理由にどのように対処すれば良いのかが重要なポイントではないかと考えた。

家族や親戚、先輩・後輩や同僚、友人たちとの交際を全て絶ち切ってしまうということにも成りかねない行為であるから、よほどの事情がないと遠く離れた地への移住を決意するとは考えにくく、その主な原因であろう対人関係を悪化させた事情を考えてみたところ、本人の考え方や性格に起因するものが大半であるが、共通項のひとつにはやはり経済的な問題も感じられる。

    農業研修会


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定住支援のポイントとは貯金可能な就業支援

このため、平成20年度からは、新規転入者に積立貯金を強く勧めるようにしてみたところ、家賃や給食費、税金などの滞納が減少しただけでなく、周囲の人々とのトラブルもほとんど聞かなくなった。「2〜3年間の積立貯金を経て、空き住宅や宅地を購入し、自分の不動産を持ちましょう。」と、半ば強制の如く感じさせるほどに強く勧めたことで、転入者が未来に希望を持ち、良い結果に繋がったのではないかと感じる。(種子島では、積立貯金を経て住宅建設や古屋の購入・改築に至っているケースが既に数件でている。)

だとすれば、定住支援で一つの重要なポイントは、積立貯金を可能にさせるよう、仕事に就かせることと言えるだろう。自営業を開業できるような人は別としても、多くの場合でどこかの職場に就く必要がある。種子島も過疎地の一つであり職場の数も規模も都市部に比べて小さいので、就職が難しいものの、それでも人手不足で悩んでいる業界、あるいは人手が確保できるのなら規模の拡大も可能な業界もある。転入者にとっての本業となる就職が必要なことはもちろんであるが、サポセンでは、家庭として副業を持つようにも勧めている。大きめの家庭菜園や業務としての栽培・飼養や手工芸、ホームページなどを利用した地域の情報発信や地域へ観光客を呼び込むような新しいレジャーガイドショップも出来た。これらを本業の妨げにならない範囲でチャレンジ・継続することで周囲の人々や金融機関などからの信頼度を高め、さらに周囲の人々との様々な関係を密にすることで、転入者としての地域での立場をより早く確たるものにするよう話している。

    スイス人も芋掘り体験


    子どもといっしょに安納芋の芋掘り体験

中高年の転入者では、経験はあっても、やる気がなかったり協調性がなかったりする場合もよくみられるが、あまりに若いと即戦力としては役に立ちにくい。一方、30代夫婦で小さな子供がいる家庭は、地域の自治会活動やPTA活動、子ども同士の繋がりなどもあって、地域にも定着しやすく、これから地域での仕事を覚えるにも経験とやる気、定着の必然性のバランスが良いようだ。相談を進める時点から、転入希望者自身のためにも無謀な計画や甘い見通しを許さないように留意すれば、自然と30代有児家庭が多くなるように感じている。

就職先の話しに戻ると、まずはそういった業界の情報を担当者が熟知し関係者との連携を図っておく必要がある。事業所からの募集を待っていても始まらない。例として、医師や看護師、介護士、整備士など、あるいは人手が確保できるなら飼育する牛の頭数や舗場の面積を増やしたいという農家、若い労働力不足に悩む定置網漁の事業者、営業や接客が出来る人物なら雇用したいという販売店など、地域の業界について事前によく調べておくと、どの業界のどの事業所で高齢化しているとか後継者がいないとか、あるいは人手が確保できれば規模を大きく出来そうだとかを把握しておける。更に、そういった事業所の人々に定住促進を理解しておいてもらえるので、必要な情報をもらえる可能性も高まるだろう。

    夏の新規移住者交流会

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就職支援は、まず転入者自身の意識改革から

就業支援は、あくまでも転入者自身に「仕事を得る力」を身につけさせることが肝要である。したがって、転入者へは「転入時に手配する職は、当面の生活を支えるためのアルバイトで、その後の職は、目指す業界の人たちや周囲の人々、金融機関などからしっかり学んで、自身で考えながら、自力で得るように」と話している。転入者に住宅の賃貸や不動産の売買、就職などで優遇すると、周囲の人々との関係にも影響し、転入者自身のためにもならないうえ、地域としても、援助してくれないと定着できないような人物ばかりが集まっても困るだろうと考えたからである。この転入者への優遇という点においては、現実には町役場や議員の方たちとは意見の一致を得られていない。

「この町のためにも一定規模の書店が必要だから。」と踏ん張る書店主もいるし、「業態転換してでも雇用を守りたい。」と考える事業主も少なからずいる。高尚な志までは表現しなくとも、「外から人を呼び込んででも販売を増やしたい。」と考える商店主たちも心強い。こういった人たちと連携を上手くとることが移住コンシェルジュとして定住促進を担当する者の役割なのだと思う。

種子島の西之表市にあるサーファー連盟の初代会長の「移住してきたサーファーは弟妹やねん。そやから悪いコトしたら怒るで。」という言葉からは、まさに会長としての覚悟やこれまでの苦労が窺える。こういった人物が各町村におられるなら、ぜひとも定住促進を担当していただきたい。

その一方で、転入者が来ることによって直接利益を受けることのない業種の人たちには、理解を得られない場合も少なくない。転入者に就職口をとられて「うちの息子が就職できなくなった。」とか「うちの子どもが家を借りにくくなった。」、「地域の家賃相場が上がった。」などと、地域の人たちにとってはマイナス面が目立つ場合もある。さらにはそういった噂話が広がって地方議会さえ影響される場合もある。また、定住促進とは地価を上げることでもあるので、歓迎されない向きは残る。

多くの人は、数回のトラブルに会うと「もう移住者と関わるのはイヤだ。」などと被害者になって逃げようとする。過疎社会になった当事者意識がないのかもしれない。転入者に裏切られて心が傷つく場合もあるので、過度な期待は寄せないように事前によく話しておいた方が無難なようでもある。全ての人が定着できる訳ではないことを予め覚悟しておくと気楽になるのではないだろうか。相性が合わない場合は帰してあげるべきなのだと。

これら地域の人たちにとってのマイナス面は、地価上昇の点を除いて、そのほとんどが極めて短期的な問題であって、時期が過ぎれば一緒に飲み食いする機会もでき、取引や提携、同じ地域の一員として出会い、交流する時が来るので、やり過ごすくらいのつもりで良いと思うし、地域の従業員たちや商店主たちと競合することも、その地域が活性化に向かう要素の一つではないだろうか。

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足りないのは事業者や企画・営業マン

一方、起業または自営業として開業する転入者もでてくる。料理店や民宿、食品の製造・販売など、地域の特性を理解すれば、その人なりの価値観も併せて新しいタイプの事業所が出来ることもある。都市部から移り住んだ者なら、地方の食材や料理を買い手側の目で判断することも出来るから、よりシビアな商品開発も期待できる。

シーカヤックのガイドショップなど観光客を呼ぶような業種では、やはり利用者側の視点を以て、より有効なサービスを組み合わせたことが成功の要因だろう。彼らは行政などからは補助を受けず、自力・自己責任で起業したからこその強みがあると思う。買い手側の目線と作り手側の環境・事情の両方を知る人物が多く誕生し、取引先や金融機関などからの信頼も得て自らの力で事業を興すことは、地方にとって素晴らしいことではないだろうか。

ただ、定住促進活動を呉越同舟の団体で事に当たると、大方は無難な総会運営を目指すことになり、自治体が資金を提供したところで、予算として計上しやすいイベントの開催やアンケート調査程度の活動に収まり、定住支援を支援するような立ち位置に後退する、つまり主体性からはさらに遠ざかってしまう。定住促進をするグループが一つである必要はないだろう。町村長が把握したいというなら、それぞれと付き合えば事が足り、競争の原理の効果を期待したいものである。なにより、定住促進は地域活性化であるから、その地域の意志として主体性をもって当たるべきだと思う。 

また、地域のことを、その地域の人々だけが深く理解できているとは限らないのではないだろうか。他地域のことや、より大きな地域の中でのその地域の立ち位置を理解できる人物というのは、研修という名の観光旅行で他地域へ訪れるだけの人物ではないと思う。やはり身銭を切って利益を上げるべく真剣に勉強しに行った人物にこそ期待したいと思う。そういった事業者やその業界を経験した転入者に協力をしてもらいたいと考えている。

私にとって、種子島の1番の魅力は、人の存在である。例えば、今年で86歳になる近所のおじさんは、普段うちへ来て話してくれることのほとんどが、5年後や10年後、20年後のことばかりで、先々の為に、今どの畑に竹を植えておこう、どこそこに石垣を積もうなどと、前向きな姿勢を見せてくれる。こういうおじさん達と一緒にいられることが、ただただ嬉しい。

「その時には自分は死んでいないだろうけれど…。」などと言いながらも、淡々と飄々と未来のことを考えて今なすべきことをやり続ける姿を見せてくれる。こういった人たちのいるこの地域社会をなんとしても存続させたいと願う。

    安納芋の畑(夏)

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最後に

南種子町の中学校PTAによって行われた伝統行事の準備作業での反省会(飲み会)でのことである。とあるPTA参加者は「子供たちは皆、外で出ていって帰ってこない。(この地域は)人が少なくなって侘びしい。この侘びしいという気持ちが君に解るか?」という。寂しいという表現ではなく、敢えて侘びしいと言ったそうだ。

私は当面この意味を考えてみようと思っている。

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