全国町村会

いきいきした未来へ波田の郷づくり×人づくり
〜産業育成塾で地域づくりの担い手を育てる〜

長野県波田町

2711号(2010年3月1日)
地域づくり課 百瀬朋章

上高地の麓の町

波田町(はたまち)は日本有数の景勝地である上高地の麓に位置し、この3月31日をもって松本市へ編入合併する人口約15,000人の町です。昭和50年代から松本市のベッドタウンとして、人口が急激に伸び、長野県内では比較的若い方の町です。

豊富な水と肥沃な大地が、りんごやスイカなど多彩な農産物を生み出す

波田町の上波田地区には、昔、はしかが流行った時、「仁王尊の股をくぐったら、はしかが軽く済んだ。」という故事にちなみ、地元の高齢者クラブが、木造金剛力士像(仁王像)の阿形の股の間を子供がくぐるという「仁王尊股くぐり祭り」を20年以上前に復活し、毎年4月の第3週に行っています。

また、期を同じくし、股くぐり祭りの会場近くでは、山の管理が行き届かず荒れるにつれ、民家の裏山に自生していたカタクリが少なくなっていました。これを憂えた仲間が集まり、山を借りて整備しながら少しずつ数を増やして、今では4,000uの敷地に約3万株の花が咲き誇る「カタクリ祭り」も行っています。

産業の面では農業が主役です。豊富な水と広大な農地に米・果実・野菜が作られており、スイカやりんごが主力作物です。また、山際の開墾地では山林種苗の栽培が盛んであり、植木を扱う緑化木業者も多数営んでいます。

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産業育成塾の立ち上げへ

農業が中心として商業・工業も盛んではありますが、近年は、町の産業は全体として衰退する傾向にありました。この危機的状況を脱し、将来への展望が開けるようにと、町では産業振興計画を策定。計画では、1.「目標の共有」2.「事業者・関係団体・町民・行政の協働」3.「考えながら走る」を3つの要点としました。今、全国では、多種多様な住民が集まり、考え、まちづくりを実践していること、また、経済活動である産業は事業者自らが行動することによって成果が得られる、ということが背景にあります。

塾生自ら考え行動した公開講座は育成塾にとって転機となった

この計画の中には「人材の育成」があり、取り組みの中に「新しい経済感覚を持った自律した人材の育成、人材育成を目的とした交流会」があります。立場の異なる産業従事者が仲間づくりからスタートし、地域を学び、自分たちが出来ることは何かということを考え、議論し、それを発信するための場とするとともに、「住民協働のまちづくり」を進める中で、住民の目線からまちづくりを考え、集まった者同士や行政との繋がりを通して人を育てる場、とすることを目的に塾を立ち上げることになりました。

まず塾長には、地域づくりに造詣が深い、京都大学大学院経済学研究科の岡田知弘教授に就任をお願いしました。そして塾生については、公募や各種団体へ推薦をお願いした結果、町産業の担い手として活躍している農業関係者10名・商工業関係者10名、計20名が集まりました。

塾は、一期2年を講義期間とし、岡田塾長のオープニング公開講座「住民一人ひとりが輝く地域づくり」から始まりました。1年目は、特に「地域の過去を知れば、未来が見えてくるのでは」という教えを重視。波田町の歴史の講義を手はじめに、松本大学の先生や「仁王尊股くぐり祭り」を運営する現場の方からもお話を聞いていきました。塾生たちは、講義を重ねるごとに、地域づくりが盛んなところは地域を支える人物がいて、その人が地域を愛していること、自分が地域の中で何をやらなければならないかを考えている、ということを学びました。

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公開講座が転機に

カリキュラムの2年目には塾生が企画立案し、住民が参加できる公開講座を開催しました。住民協働のまちづくりを村長自ら実践している長野県内の阿智村(あちむら)岡庭村長に講師をお願いし、塾生が主体となって講演の依頼、打ち合わせを行いました。公開講座では、「住民協働と地域づくり」をテーマに、岡庭村長から取り組みをしている多くの事例を紹介していただき、町の地域づくりのあり方について、塾生及び聴講者との意見交換が行われました。

この企画は、決められた講師の話を塾生が聞くというスタイルから、塾生自らが考え行動するという初めての機会となりました。産業育成塾は自分たちの仕事・産業をいかに活性化・発展させるかを考える場なのでしたが、議論を重ね、公開講座を経た後には、自分達だけが良くなっても地域全体が良くならなければ自分たちも発展することはないだろうとの結論に達し、産業の振興もさることながら、まちづくりをどうするか、ということに議論が転換することになりました。また、まちづくりを進める上では、住んでいるこの地がどういう状態にあるのかは、住んでいる人間には分かりにくいことから、外部からの目で分析したり、視察をしたりすることで、まちづくりに対するイメージが固まってきたように思えました。 

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卒塾〜仲間作りの第一歩へ〜

2年1期の終わりが近づくと、卒塾についての話し合いが行われました。波田町が発展したのは山からの清らかで豊富な水が町の隅々を潤し、肥沃で広大な耕地があること。また、町を潤す水は個人が資材を投げうって作った堰(水路)があることから、波田には水を中心として色々な宝があると気づき、テーマは皆が共通する「私が見つけた宝物 〜五感で楽しむ旬の杜〜」となりました。

内容は全体発表と個別発表を行うこととし、全体発表では、波田は水を中心として全てが繋がっていること、個別発表は「宝物探し」を中心に発表が行われました。

ただし、卒塾は終わりではなく、節目の位置づけとしましたので、卒塾式後の懇親会において代表を決め、これからも何かやる時は協力することを決めたのです。普段では話すことがない者同士が塾をきっかけとして仲間作りができた瞬間でした。

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反省を踏まえて次のステップへ

順調だった、と思われるかもしれませんが、@農業経営者が多数在籍しているので、冬場を中心として講座を開催しなければならず、1年を通して定期的に講座を開催することができなかった。A塾生の出席率は思ったほど高くないなど、課題はいくつかありました。

しかし、住民協働によるまちづくりや農業・商工業等の産業の活性化に向けては、今後も人材育成の必要があるので第2期生として産業育成塾を引き続き実施する運びとなりました。

反省を踏まえて次のステップへ。第二期開塾

第1期を反省する中で、第2期については、年間を通して開催可能な塾とし、住民協働・まちづくり・仲間づくりを行える人材を育成するということを主に置き、幅広く町民に対して募集をした結果、9名が塾生として応募していただきました。

第2期は塾長の「地域づくりのススメ」と題したオープニング講座から始まり、引き続いてのカリキュラムの説明の中で、「まちづくり」といっても何をしてよいか分からないとの意見があったことから、第一期生の研究発表を聞き、第一期同様、波田の歴史や地域づくりを実践している方からお話を聞きました。

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合併後を見据えた地域づくり

まちづくりがカリキュラムの核でしたので、塾では県内でまちづくりを実践している方を講師として依頼し、講義を開催していきました。塾生たちは地域を愛し、地域の中で自分は何をしなければならないかを考えていることは当然ですが、共通して持っているテーマが「合併」でした。この言葉が塾の進むべき道を決めるキーワードとなりました。

育成塾では毎回活発な議論が交わされた

町では任意合併協議会が設立し合併への準備が順調に進むなか、4年前に松本市へ合併した梓川地区の自治区長をお招きし、お話を聞きました。合併後も引き続き地域が振興し、地区に活力を与えるには新たな組織が必要ではないかと、団体の長同士が話し合いを重ね、検討中とのお話を聞きました。この講義により塾生は、「地域のことは地域が決める」ということが大切であり、波田の地域づくりは合併後を見据えて考えなければならない、と気づきました。

この後、塾長から「市町村合併とまちづくり」と題し公開講座を開催し、町民に合併後の地域のあり方を県内外の事例を交えながら講演していただきました。講演では基礎自治体のこと、合併後の影響点等をお話ししていただき、合併する波田町にとって何を考えていかなければならないかについて、すでに合併した自治体でいきいきと暮らしている地域の例を交えながらご講演いただきました。そして、住民が自治組織を立ち上げてまちづくりを実践することが、合併後の問題解決策として有効であることを教えていただきました。

さらに、合併後の地域づくりのイメージをつかみ易くするため、合併後の住民が主体となって地域を運営している自治体を視察しました。この視察では、地域を分析し強い点、弱い点を見つけ、これから何をしなければならないかを明確にし、目標を数値とともに掲げていると共に、地域を動かすのはやはりそこに住む住民であるから、住民が学ぶ機会を得ることが出来る環境が大切であること、また、自治区制度を全地区に設置しているところでは、地域のことは地域が決めて動かしていく仕組みを、市がリードを取りながらも、地域に権限を持たせていることを目の当たりにし、大変参考になりました。そして、地域協議会の取り組みも聞くことができ、市と地区のバランスを取りながら自治を進めている姿は視察をした全員の心の中に刻まれたことでしょう。

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第二期卒塾〜人材育成が町の将来を拓く〜

塾活動も終わりに近づき、波田の将来は住民皆で考えることが重要であることから、卒塾テーマは「いきいきした未来へ 波田の郷づくり×人づくり」とし、第一期同様発表形式にて卒塾発表をすることになりました。

視察では、地域を動かすのは住民であることを改めて学んだ

全体発表では、人口が減少し地域コミュニティーが薄れるなか、学び、実践を繰り返すことが大切であるということ、住民と行政の協働、住民主体の地域づくりを進めるには、@住民の生き甲斐や産業振興に結び付く活動、A地域全体をカバーし意見を集約する仕組み作りが必要という二点に分けて発表し、個別発表では、塾生が前述の二点についてこれまでの塾活動を通したなかで考えたことを発表しました。

人材育成は費用対効果を考えた場合、投資が直ぐ結果には繋がりにくく、理解されにくいのですが、地域の将来を考えた場合、地域づくりの担い手を数多く出すことは大切であり、また、塾長が提言している「地域内再投資力」(塾長著:『一人ひとりが輝く地域再生』 (新日本出版社)より)につながるといえるのではないでしょうか。

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当たり前が宝物に

地域づくりには答えはなく、様々な課題がある中では、一概にこれをやればよいというものではないのですが、何をやってよいかわからないときは、「地域の宝物」を探すことから初めてみるのがよいと思います。なんでもないことに光を当て、磨けばすばらしいものが出てくるし、ビジネスに発展する可能性もあります。

「仁王尊の股くぐり」や「縣魚(げぎょ)」と呼ばれる飾りなど、波田町には宝物がたくさんあった

例えば、波田町の古民家の屋根には「雀踊り」と呼ばれる飾りがあるものがあり、併せて、「縣魚」(ゲギョ)と呼ばれる飾りを付けているものがあります。これらは普段当たり前のように見ており、在るのが普通で珍しくもなんともないと思っていましたが、実は県内の一部の地域にしかないと聞くと、見る目が違って来ました。

普段何気なく暮らしていて気づかないものでも磨けば光るものが多数存在しています。

仲間を集め、宝物探しに出かけてはいかがですか。

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終りに

4年の長きに亘り、わたくし達に指導していただいた岡田塾長に感謝を申し上げると共に、卒塾した第一期生・第二期生の今後の活躍を願い、結びにさせていただきます。

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