全国町村会

新たな産業創造で町の未来を拓く
〜広域連携が「ものづくりの町」復活への道標〜

島根県東出雲町

2710号(2010年2月22日)
全国町村会広報部

記紀神話の舞台からものづくりの町へ

南にそびえる京羅木山(きょうらぎさん)や星上山(ほしかみやま)が、波穏やかな中海を望む島根県八束郡(やつかぐん)。東出雲町(ひがしいずもちょう)は、平成の合併前には7町1村あったこの郡に、いま唯一残る町である。その昔、大八洲国(おおやしまのくに)をお創りになった伊奘諾尊(いざなぎのみこと)が、愛妻伊奘冉尊(いざなみのみこと)を追いかけて黄泉の国へ踏み込んだ入り口「黄泉比良坂(よもつひらさか)」があるという記紀神話の舞台は、現在ものづくりの町として、発展の途上にある。

松江市(まつえし)、安来市(やすぎし)という県内有数の都市に囲まれて、東出雲町は「ものづくりの町」としての個性をいかに発揮しようとしているのか。町の今を取材した。

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農機具製造の歴史を糧に新たな産業創造に挑む

「ものづくりの町」を標榜する東出雲町は、もともと「農機具の町」として全国に知られた存在だった。町民が“東出雲の三傑”の1人と敬う佐藤忠次郎が、佐藤造機(株)(現在は三菱農機(株))を創設したのは大正6年。以来、町は三菱農機(株)の企業城下町として栄え、町内には一般機械器具をつくる中小企業が集積してきた。ピークである昭和61年には、製造業関連の事業所が100、従業員数は3,370人(町内従業者全体の53.6%)を数えたという。

町の産業をリードしてきた農機具製造は、依然不振が続く

それが、平成8年頃を境に、製造品出荷額は大きく減少する。その背景には、農業用機械の国内市場の縮小があった。ものづくりの町・東出雲の中核となる三菱農機(株)は生産調整を迫られ、同社からの受注に大きく依存していた町内の中小企業は、苦しい状況に追い込まれることとなった。町内総生産額に占める製造業の割合は、昭和60年度の59.1%から平成16年度には33.8%へ、金額にしておよそ90億円も落ち込み、その後も復活の兆しは見えていない。

この苦境を何とか切り抜けようと、町は平成20年3月に「東出雲町産業振興ヴィジョン」を策定。“企業城下町”という特質もあって明確な振興策を打ち出してこなかったこれまでの姿勢を改め、行政も一緒になって「ものづくりの町」復活に取り組む意志を内外に示した。同ヴィジョンでは、町内の産業を詳しく分析した上で、今抱えている課題を列挙。その解決に向けて、“意欲あるひと”づくり、“新しいもの”づくり、“多面的ネットワーク”づくり−の3つの基本方針を定め、今後10年の具体策を示している。「未来を拓く新たな産業創造への挑戦」とつけた副題に、東出雲町の「ものづくりの町」復活への並々ならぬ意欲がうかがえる。

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中海圏域のつながりの中で新しい道を模索する

長らく町を引っ張ってきた製造業の不振が続く一方、町の人口は順調に伸びている。県都・松江市と安来市に挟まれ、中海を挟んで鳥取県米子市を望むという地勢を読みとって、行政が、多くの人が移り住めるだけのインフラ整備を進めてきた結果だ。下水道整備率は97%、上水道も100%の整備率を達成しているほか、道路整備や河川を生かした景観づくりにも積極的に取り組んできた。

錦新町商業集積地は店舗が並び、活気をみせる

とりわけ、町内数カ所で土地区画整理事業を実施して、流入人口の受け皿づくりに力を注いできたことが、右肩上がりの人口増加を生み出す直接の要因と言えるかもしれない。中でも中海干拓地の入り口にある34.4haの錦新町商業集積地は町中心部から1.5qの位置にあり、交通の利便性が高く、町商業活性化の核となることを期待されている。平成13年に完成した整理区画内には、すでに約2,000人の住民が暮らしていて、町の新しい顔としての雰囲気を漂わせつつある。

こうした町をとりまく環境の変化を受けて、東出雲町がまちづくりのキーワードと考えているのが「広域連携」だ。前述のように、町は松江市をはじめとする3市に囲まれ、中海経済圏の中心に位置している。農機具製造業の不振が続くとはいえ、町内の企業が長い歴史を経て培ってきた技術力は、他分野からのニーズに応えるだけの潜在力は持っているはず、と町担当者は語る。先に触れた「東出雲町産業振興ヴィジョン」でも、「広域連携の推進」を掲げ、宍道湖・中海圏域での連携や、国内他地域の産業集積地との交流に関する事業を打ち出している。

三菱農機(株)の企業城下町から山陰地方を代表する「ものづくりの町」へ−。変化の時代に対応して、東出雲町がさらに発展の道を歩むことができるか否かは、ひとえに産業の広域連携の成否にかかっていると言えそうだ。

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都市近郊の町としていかに輝くか

都市近郊の町村は、山間の町村などとは、また別の課題を抱えている。近隣の都市の中に埋没せず、個性を失わずに、独自の輝きをみせることができるか。地方財政厳しい折、東出雲町もこの課題を抱えてか、将来の選択肢のひとつとして松江市との合併も視野に入れている。しかし、任意協議会の検討経過にもすでにあるように、県都との合併となれば編入合併は避けられない。それだけに、課題も多い。「弾力性のない厳しい財政状況が続いている。「ものづくりの町」として何とかやっていけないものか…いずれ民意を問わなければならない。」と鞁嶋弘明町長も苦しい胸の内を明かす。

ものづくりの町・東出雲町は今後どのような道を選ぶのか。その行方を見守りたい。

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