全国町村会

残る町並みをバネに地域力発掘

福島県下郷町

2704号(2010年1月11日)
事業課長 室井春雄

兜の緒を引き締めるのは今

「いつまでも年間100万人を超える観光客に来てもらえるだろうか。」 このことが、どこか頭から離れないのが正直な心境です。

「未来につなぐまちづくり」を振興計画の柱に据えている下郷町にとって、大内宿への観光客の動向は、将来を占うバロメーターでもあるといえます。

大内宿を含め、下郷町への観光客は年間200万人を数え、町内に宿泊者数の減少に悩む温泉場があるにしても、町全体としては、上昇気流に乗っている今だからこそ、兜の緒を引き締め、なぜ観光客が増えてきたのか、また、持続可能な町づくりにとって現在どこに問題があるのか、現状認識と課題解決への合意形成は、交流型町づくりの出発点でもあります。

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公共投資の果実は将来への糧

「電柱を表通りから裏通りへ、舗装道路から砂利道へ、サッシを外して木製の建具に、トタンをはがして燃えやすい茅屋根に。」景観が変わり始めたのは、これらの事業によってでした。観光客は、これらの事業が進むのと比例したかのように多くなってきました。

今の課題は、行楽シーズンの交通渋滞対策と、接遇の維持向上です。特にハード面の駐車場とトイレの拡張は焦眉の問題で、用地の確保、財源の負担など地元受益者との折り合いが、事業進展へのカギを握っています。接遇の面は、おもてなしの心を謙虚に持ち続けるということなしにはできません。相手に対する心情は接客現場で即刻表れるもので、駐車場のガードマン始め、お土産屋、食堂、民宿など全ての受け入れスタッフが、将来への思い入れをどれだけ相手に伝えているのか、その場その場で評価されているものであって、おもてなしの心という無形の資産は、常に高品質に磨かれ持続されなければなりません。

国指定天然記念物「塔のへつり」。100万年前にできた地層が隆起し浸食され、13万年前ごろ形成されたと言われる。

公的資金をテコにした30年にわたる事業の効果が、地域活性化の牽引車となって軌道に乗っている大内宿は、周辺地域へ富の還元をどのようにして実施し、自らを持続させる力に結びつけていくのか真価が問われています。また、大内宿が200人を超える雇用の場ともなっている投資の果実を行政はどのように発展させるか、この両者の良好な関係と高め合いが、今後の町づくりを左右する大きな要因であると考えています。

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選定合意形成まで苦悩の日々

人口7,000人の町に300倍の観光客が訪れるようになった動機は、大内宿が国重要伝統的建造物群保存地区に選定されたことが最大の要因です。

大内を広く社会に始めて紹介したのは、昭和42年当時武蔵野美術大学の学生だった相沢韶男さんです。茅手職人(茅屋根を葺く職人)の調査時の印象を「大内は強烈だった。草屋根がずらりと並び、私はその姿に圧倒された。」と述べています。

新緑と紅葉時期はハイカーが押し寄せる観音沼森林公園大内宿が選定を受けるまでは、当時の社会背景により住民の理解が得られるまで14年を要しました。

一つは大川ダムの建設工事です。大内には揚水式ダムの上池として大内ダムが建設されることとなり、これにより地区民は、土地の補償や就労の場を得るようになりました。当時の日本経済は高度成長の真只中にあり、大内にもその波が押し寄せていました。

もう一つは外部メディアからの発信でした。日頃静かな山合いの集落に多くのマスコミが入り、テレビ報道で「金持ちはトタン屋根、貧乏人は茅屋根に住んでいる」といった報道が流されたこともあり、昭和56年4月の選定までは苦悩の日々がありました。

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整然とした地割りに茅屋根並ぶ

茅葺き屋根の駅舎湯上温泉駅

町並みの特徴は、南北500b、東西200bの範囲内に今も宿場当時の姿をよく残し茅屋根が残っていることです。旧街道の両側に48棟の主屋が一定範囲壁面線を後退させて、敷地の北寄りに立ち並び、南は余地を残し奧の土間入り口への通路となっており、敷地の間は6.7間で建物前面の壁面線が揃っています。道路の両側には、割石積みの側溝が走り、各家に洗い場が設けられています。

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選定時より茅屋根増える

大内宿保存会が主体となり、国、県、町の指導と援助をもとに保存修理修景が進められてきました。茅屋根の葺き替え、外壁修景、防災設備、本陣新築、生活道路取り付け、電柱電話柱の移設、街路灯・駐車場設置など今までにかかった事業費は11億4,000万円になっています。茅屋根の葺き替えは毎年実施され、最近はトタンをはがして茅屋根に復元している家が順次出てきており、茅屋根は増えています。鉄筋コンクリート建築をカモフラージュし表通りの町並みにマッチさせている例も見られ、保存への主体性が感じられるようにもなってきました。

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集落の主体的な取り組み

半宿半農で生計を支えてきた大内集落の成り立ちは、自然との共生を基本としていました。農業離れが進む中、町並みの文化的価値を高めることと、集落を包む田畑を荒廃させないことは、一体のものであることに気づき、耕作放棄地の防止に取り組む集落の若者グループも生まれ、集落全体の景観を守る態勢づくりが始まりました。

御輿が集落をしずしずと渡行し神と村人が一体になる7月2日の大内宿の半夏祭り。この日は集落が観光客で埋め尽くされる。

集落の任意団体である大内宿保存会は、「売らない、貸さない、壊さない」の3項目を原則とし、外部資本による開発等に惑わされないように自主的に規範を作り実践しています。

また、集落には労力提供互助制度の「結い」があり、近年その絆を復活させ、茅屋根葺き替え事業の計画推進化に大きな役割を果たしています。

道路や河川等の環境美化は集落全体の奉仕活動として年中行事に定着し、集落内の砂利道が夏場各家々で水まきされる光景は、旅情を誘うものとなっています。

火災に弱い茅屋根にすることが文化財の価値そのものであるため、火を出さない普段の注意と努力は至上命題となっています。子供会、修養会、青年会、火消し組など年齢各層に区分した組織的な啓発活動は、夏祭り、雪祭りにも連動し有機的な相乗効果を生み出しています。

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町内村おこし10集落の事例

下郷町のユニークな施策の一つに「元気なまちづくり支援事業」がありました。これで立ち上がった集落がその後も自主的な村おこしに取り組み、一般国道甲子道路の開通と相まって、最近町全体に新しい風が吹き始めています。この現象はもちろん、大内の集客力が底力となっていることは言うまでもありません。

平成14年度から3年間、竹下内閣のふるさと創生資金の積み立てを原資として、各集落1,000万円を限度とした村おこし事業を募集しました。町内38集落中21集落から応募があり、10集落が民間人に諮問した審査委員会をパスし、事業実施となりました。

2月第2週の土日に開かれる大内宿冬祭り。20余年前から始められた完全民営ですっかり定着した。

◆事例1

由緒ある観音堂に仁王門を復元させ境内周辺を整備し、年中行事を復活させました。参拝者の記帳を基に情報を提供し、登山口の地の利も活かし目立つほどではないけれどもしっかりとした歩みを続けています。

明治初期から禁伐の掟を継承し保存されてきた戸赤の山桜。開花時期には40人の村に1万人が訪れる。

◆事例2

カタクリの花の群生地に目を付け、開花期に写生会や移動絵画展など催し、一時期ではありますが、物産テントが賑わうイベントには、リピーターの姿もあり、村人に限りない励ましを与えています。集落自らが春以外への波及を模索し始めている傾向に、事業発展へ期待が寄せられています。

◆事例3

40人の村に1万人が押し寄せるやまざくら祭りは、集落の最大行事となり、町の観光スポットに成長しました。また廃校を利用しての宿泊体験施設の運営、炭焼体験、木地挽きと漆加飾の復元をかみ併せ「消えそうな村」の再生への挑戦は、村人を元気にしています。第2の人生で田舎暮らしを楽しもうとしている団塊の世代らにとっては、絶好の隠れ家的地域となりうるかもしれません。

◆事例4

かつては造り酒屋の名水にもなっていた湧き水を、藩政時代の旧街道散策コースに整備し、年数回流しそうめん祭りなどで集落全体が楽しみ、来訪者をあたたかく迎えています。「長寿の水」と命名したこの地には、茶道をたしなむこだわりの天然水ファンも見えるようになっています。

◆事例5

文殊菩薩の境内に薬草を植え加工品を作り、合格祈願などの参拝者に頒布しています。元来この集落には版木で刷る絵馬があり、日の目を見ることとなりました。

数名の若者が始めた真冬のローソク祭り「雪・月・火」。今では町の象徴的なイベントに成長した。

◆事例6

湯量豊富な温泉地の宿泊客挽回のため、足湯を設け、岩の隙間から吹き出す風が高山植物群を形成している山へのトレッキングをイベント化し、コンスタントな入り込み客確保に知恵を絞っています。

◆事例7

村の歴史を小冊子にまとめ、語り継がれてきた怪力男の伝説などを広場に集め、旧街道ウォークなどで披露しています。小正月行事など復活させ、足元にころがっている宝探しの楽しさが実感されてきました。

◆事例8

旧街道を股旅姿で歩くイベントや、農産物直売所で活気を見せている集落ができました。不動尊境内の清水でクレソンを栽培し、お小遣い稼ぎを始めた小グループの出現が、直売所設置へと発展していきました。

◆事例9

戦後の開拓集落では開拓魂の欠如を憂い、象徴祠とイベント広場を設けました。行楽シーズンにはここで農産物直売を行い高齢者の生き甲斐にもなっています。

◆事例10

高齢者に運営してもらおうと始めた山菜農園は、きのこの栽培まで手が広がりました。数名の若者が始めた真冬の1,000本余のローソク祭り(雪・月・火まつり)は集落の一大行事となり、町の象徴イベントに紹介されるようになりました。

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官民総力戦で地域力発掘中

下郷町に一昨年9月新しい国道が開通したことにより、観光客が約20%増えました。国道の開通は、法人による耕作放棄地を解消しながら30ヘクタール規模の大規模農業経営と、地域ブランドとなり得る野菜の漬け物を出現させました。また、隣県の牧場の堆肥と稲ワラを交換する耕畜連携も生まれました。

眺望抜群な峠に立地する「道の駅」はレストラン、物産販売も上々のスタート

大内宿の順調な集客力と、国道開通による道の駅の設置は、各集落への刺激となっています。村おこしに立ち上がった10集落以外にも、集落営農組織の活用により産直を始めた動きや、町による滞在型市民農園クラインガルテ ンの開設など、行政と民間は共に連携を深め、地域力発掘に奮闘中です。

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