全国町村会

ふるさとの暮らしを守れ!
〜これが下川流域資源の活用法〜

北海道下川町

2696号(2009年10月12日)
全国町村会広報部 黒田 治臣

地元の資源をどう生かして、地域の活性化につなげるか。それは、全国の町村が共通して抱えるテーマだ。「平成の合併」を経て、新しい町づくりへの一歩を踏み出した自治体あり、単独を宣言して自立の村づくりに挑戦する自治体あり。いずれの町村にとっても、地域資源の活用は、新しいふるさとづくりを成功させるカギとなるだろう。

北海道下川町(しもかわちょう)には、総面積644.2平方キロの約9割を占める広大な森林資源がある。その森林を徹底的に生かした同町の地域づくりが、今注目を集めている。キーワードは、「資源の循環」と「価値の多様化」――

「森の恵みをしゃぶりつくす」と言ってはばからない同町の一連の取り組みを取材して、森林の町が、どんな将来像を描いているのかを探った。

豊かな資源に抱かれた新天地

名寄市(なよろし)から東へ、車で25分。北海道らしい広い空と緩やかにうねる田畑の道を走ると、やがて車は下川町の中心部に入ってくる。車窓から家並みの向こうを見渡すと、緑に覆われた山々の尾根が続いている。

整備が行きとどいた森は整然として美しい

新たな生活の地を求めて、本土からやって来た人々がここに開拓の鍬を下ろしたのは、明治34年。時は日露戦争前、日本が近代化への道を着々と歩んでいた時代である。名寄川の上流、大雪山から北へ連なる北見山脈の、トドマツ、エゾマツ、広葉樹の原生林に覆われた地で、入植者たちの暮らしは始まった。

こうした土地柄、下川町は古くから林業との縁が深かった。開町当初は、鉄砲の銃床材として軍にクルミ材を供出。さらに大正10年に名寄から遠軽(えんがる)に至る名寄本線が開通して、下川の林業は大きな飛躍を遂げた。とりわけ関東大震災と太平洋戦争の後には、都市に大量の復興材を送り出し、その名が一躍全国に知られることとなる。

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町が滅びてしまう-人口減少率全国4位の衝撃

かつて、下川町は林業に加えて、金・銀・銅の鉱業が盛んな町だった。金・銀は三井、銅は三菱の両財閥が戦前から採掘を開始。なかでも三菱銅山は昭和16年に操業し、太平洋戦争、朝鮮戦争などの軍事需要によって大きく発展した。最盛期には従業員約800名を数え、家族を含めて2、500人ほどが山間部に体育館や映画館も備えた集落をかまえたという。

森林組合は現場作業員30名を抱える。

しかし、ベトナム戦争の終結によって鉱業は次第に衰退。ついに昭和58年、最後に残った三菱銅山も、休山の憂き目を見ることになる。さらに、平成元年にはJR名寄本線が廃止、外材の輸入増加に伴う国産材の低迷が重なり、町は大きな危機を迎えた。人口は昭和50年からの5年間で22.7%も減少。 「全国第4位の減少率」という現実に、町民は衝撃を受けた。

このままでは町がなくなってしまう−。地域資源を生かした下川町の挑戦は、そこから始まった。

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「循環」がもたらした恵み 光り輝く町有林

「先人たちが残した森林が、60年経った今、私たちに恵みをもたらしてくれる。森は光り輝いていますよ。」下川町の林業を担ってきた同町森林組合で代表理事組合長を務める山下邦廣さんは、すがすがしい笑顔でこう語った。昭和28年、1,221haの国有林買い受けから続けてきた地道な町有林経営が、今、町に力を与えているのだ。

36品目の木材加工品を製造する北町工場は、業界でも注目を集める存在

下川町において、まちづくりの大きな基盤となっているのが「循環型森林経営」。現在保有している4,470haの町有林を毎年50haずつ造林して、60年伐期でひとつのサイクルをつくる。いわゆる「法正林思想」にもとづいた森林経営だ。昭和28年以来、60年で循環する町有林を目標に、町はことあるごとに国有林を買い受け、近年になって天然林の保続なども踏まえた理想的な面積にまで拡大させた。

戦前、下川町の林業は、老齢の大木を抜き伐りして壮齢木と幼稚樹を育てる「天然林択抜施業」と呼ばれる方法を採っていた。それが、昭和29年9月にこの地域を襲った「洞爺丸台風」で史上例のない風倒木被害を受けたことにより、山の条件は大きく変わってしまう。翌年からの風倒木処理を経て、町はやむなく、皆伐による人工造林施業へと経営計画を変更。林道を整備しながら、毎年一定の面積ごとに伐採と植栽を続けてきた。

「昭和28年当時、町の予算規模は1億円。そういう時に、自分たちの基本財産をつくるために8,000万円以上かけて国有林を買った。この英断がなければ、町は今ごろどうなっていたか…。」と、山下組合長は目を細める。下川町は、町の森林面積のうち約85%が国有林で、「国有林の中に間借りしているような町」(山下組合長)。しかし、国が管理する国有林は、木材生産重視から公益的機能重視へと経営方針がシフトしたため、伐採量が大幅に減っている。一方、町が独自に管理する町有林は、50haの造林×60年伐期のサイクルを続けてきたおかげで、毎年一定量の木材を供給する。

町の基本財産をつくりたいという先人の思いと、「資源の循環」をキーワードとした地道な森林経営が、町に尽きることのない恵みを与えているのだ。

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「価値の多様化」で道を拓く

地域がひとつの資源で特徴を出すためには、その資源の価値を「多様化」していくことが必要である。「循環型森林経営」をまちづくりの基盤とする下川町も、森林資源の「価値の多様化」には余念がない。

そのさきがけとなったのは、昭和56年のカラマツ間伐材を使った木炭の開発だ。この年10月の雪害で発生した大量の被害木を整理するために始まったこの事業をふりだしに、森林組合を中心とした資源価値の「多様化」を追求する取り組みが続いている。

エッセンシャルオイル

「とにかく木を100%生かし使用する。一粒で三度おいしい木材加工ですよ。」と、町地域振興課の春日隆司課長は笑う。例えば、木炭なら木炭で終わらせず、炭を焼いたときに出る煙から、防腐用の木酢液(もくさくえき)を採取する。今度はその木酢液によって間伐材を煮沸し、煙でいぶして燻煙材(くんえんざい)にする。製材の過程で出る端材は燃料用のチップに、また、木くずは土壌改良用の粉炭になる。かつては捨てるしかなかった木の枝葉は、エッセンシャルオイルや枕に生まれ変わり、1立方メートル当たり6,000円足らずのトドマツの原木も、独自の加工をほどこせば3万円以上の値がつくという。

手延麺「奥蝦夷白雪」

こうした数々の木材加工品を生産する森林組合の北町工場は、まさに「価値の多様化」を実践する一大拠点だ。11の生産ラインから生まれる商品は実に36品目。徹底した「価値の多様化」の姿勢は、森林資源を無駄なく生かしてごみを出さない「ゼロエミッションシステム」という言葉に凝縮されている。

資源の価値をいかに高めるか、商品としての競争力をいかにつけるか、それを絶えず考え続けた町林業関係者の努力の結晶である。

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産業クラスターで埋もれた資源を掘り起こす

森林を最大の資源と捉えてまちづくりに取り組んできた下川町。しかし、森林のほかにも地域には様々な資源が眠っている。それを掘り起こし、町の活性化につなげたい。その思いを実現するため、町が取り組んだのが「産業クラスター」という手法である。

具体的な進め方はこうだ。まず特産品開発などにかかわるプロジェクトを立ち上げ、「(財)下川町ふるさと開発振興公社」内に設置したクラスター推進部を中心に研究を重ねる。次にプロジェクトの実現に向けて、町内の企業や団体・町外の研究機関などが連携をとって事業化していく。

FSC認証在を使った割り箸

町では、平成10年に「下川町産業クラスター研究会」を設立、平成14年にはプロジェクトの具現化をはかるための組織として「(財)ふるさと開発振興公社」内にクラスター推進部を設置して新たな産業づくりに取り組んできた。

これまでに実を結んだプロジェクトを挙げれば、国際的第三者機関が適切に管理された森林であることを証明する「FSC森林認証」の取得と、認証材を使った割り箸の普及。さらに、木材を地域内で循環させる地域材住宅の建設。前述した森林組合のエッセンシャルオイルも、「産業クラスター」の成果のひとつだ。また、森林・林業以外の分野では、建設業者の農業参入によるトマトの栽培、道産原料のみを使用した手延麺の新ブランド「奥蝦夷白雪(おくえぞしらゆき)」の開発が手がける事業の多角化や、新規事業の立ち上げによる雇用の創出。また、それによって地域内にお金の循環をつくることだ。「資源の循環」と「価値の多様化」をキーワードとした取り組みは、大きく進化しているといえそうだ。などが事業化している。

「産業クラスター」のねらいは、地域資源の掘りおこしに加え、町内企業が手がける事業の多角化や、新規事業の立ち上げによる雇用の創出。また、それによって地域内にお金の循環をつくることだ。「資源の循環」と「価値の多様化」をキーワードとした取り組みは、大きく進化しているといえそうだ。

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地域資源の活用で目指したふるさと像とは

下川町のまちづくりには、ぶれがない。「地元の資源をどう生かして、地域の活性化につなげるか」というテーマと格闘しながら町が一貫して目指してきたのは、目先の利益を追わない、「持続するまち」をつくることである。

下川町ほ3町の取組みは環境省の「JIVER制度」に登録。4町による森林の二酸化炭素吸収量のモニタリング検討会を開催。

こうした取り組みが評価され、町は平成20年7月、内閣府の「環境モデル都市」に選定された。ここ数年、町では、森林の二酸化炭素吸収量をクレジット化して国内企業と連携する「オフセットクレジット」や、木質バイオマスの新しい資源となる早生樹「ヤナギ」の試験栽培などにも着手。いずれも事業化へ向けて手ごたえを感じている。「持続するまちづくり」は、「環境」というテーマを得て新たなステージへ踏み出したようだ。

早生樹「ヤナギ」は下川町の新たな資源。

「林業にしても、環境にしても、手段は何でもかまわない。大事なのは、住民が今後も暮らしていける産業基盤をつくることだ。」町地域振興課の春日課長は、下川町のまちづくりのポイントをこう解説する。地域資源を循環させ、「ゼロエミッション」で持っている価値を最大限に引き出す。これによって産業は持続し、雇用が生まれ、住民の生活の場が将来にわたって確保される。30年前、町に衝撃を与えた全国4位の人口減少率は、「持続するまち」を目指した一連の取り組みで大きく改善しているという。

子どもたちの手で植えられた「ヤナギ」の苗木は4年後にはバイオマスなどの用途に利用することも可能。

「自然は、手をかければ必ず応えてくれる。必ず町民に恵みを与えてくれます。」
10年間まちづくりの指揮を執ってきた安斎町長も、町の豊かな資源に自信を持っている。ふるさとを持続させていくためには、その資源をこれからも大事に育て、子々孫々まで引き継ぐこと−。60年前、子や孫の代を見すえて町の基本財産をつくろうとした先達の精神は、今も脈々と息づいている。

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