全国町村会

山村の持つ機能を活かして
〜新エネルギー導入で持続可能な町づくり〜

岩手県葛巻町

2676号(2009年4月13日)
農林環境エネルギー課 吉澤晴之 

町の概要

葛巻町(くずまきまち)は岩手県の北部、北三陸沿岸と盛岡市を結ぶ街道の中間地点に位置します。東京からは東北新幹線「はやて」に乗り、約2時間40分で隣町のいわて沢宮内駅に到着します。そこからは車での移動になりますが、20分ほどで町の玄関口である「くずまき高原牧場」の入口が見えてきます。

エコ・ワールドくずまき風力発電所エコ・ワールドくずまき風力発電所

現在の人口は、7,813人(平成21年3月1日現在)で、総面積434.99平方kmの86%を緑豊かな森林が覆い、周囲を標高1,000m級の山々に囲まれた高原の町です。古くから酪農と林業が盛んであり、南部藩政時代は沿岸と内陸を結ぶ交易路の要衝で宿場町としても栄えました。

基幹産業である酪農は、明治25年にホルスタイン種を導入して以来120年近い歴史を刻み、牛の飼育頭数11,000頭(乳牛1万頭、肉牛1千頭)は東北一であります。牛乳は日量で110トンの生産量を誇り、カロリーベースでは約11,000人分の食糧に匹敵します。また、化石燃料へのエネルギー源のシフトや外材の流入により低迷を余儀なくされていた林業も、町内の民間企業が製造するカラマツ集成材が建築用材としての需要を獲得するなど、明るい兆しが見えています。

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ミルクとワインとクリーンエネルギーの町

現在は新エネルギー導入などで全国各地から注目を集める当町も、一昔前までは絵に描いたような「ないない尽くし」の過疎の町でした。企業を誘致しようにも鉄道もなければ高速道路もない。観光客を呼ぼうにも温泉やゴルフ・スキー場といったリゾート施設もなく、これといった名勝もない。雇用創出と地域活性化には「ある物を有効に活用する」しかありませんでした。

その代名詞が3つの第三セクターです。昭和51年に設立され、広大で起伏のある土地を活用した大規模酪農経営はもとより、牧場が持つ多面的な機能を最大限に活かし、グリーンツーリズムや新鮮な乳製品の製造販売も行う(社)葛巻町畜産開発公社(くずまき高原牧場)。昭和61年の設立で、林産物の加工や自生していた山ぶどうを有効活用しようとワイン、ジュースの製造販売を行う葛巻高原食品加工(株)(くずまきワイン)。さらに平成5年には、増加しつつある観光客の宿泊と住民が集える場所を創出するため、グリーンテージというホテルを開業しました。日本国内において第三セクターといえば、「赤字」というネガティブなイメージがありますが、この3社は黒字経営を続けており、U・Iターン者を中心に約150名もの雇用を創出しております。

20年前は年間5万人にも満たなかった観光客が、今では年間50万人にも膨れあがりました。「地域にある資源を活用し、時代を見据えた経営を行う」というコンセプトとブレのない町づくりへの姿勢が、「食糧・環境・エネルギー」という時代の重要課題にマッチングした結果であると考えています。そして、京都会議(COP3)から18ヶ月後の平成11年6月、今や町のシンボルとなっている3基の風車が稼働することになります。

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先人の礎の上に

現在、当町では合計15基の風車が稼働しています。平成11年6月に稼働した総出力1,200kw(400kw×3基)のエコ・ワールドくずまき風力発電所は、町と民間企業が共同出資した株式会社で運営を行っており、年間発電量の200万kwhは約600世帯分の消費電力に相当します。この風車はクリーンエネルギーの町のシンボルとして地球温暖化防止だけでなく、住民の環境意識向上の普及啓発や観光資源としても多大な貢献をしております。平成15年12月から稼働しているグリーンパワーくずまき風力発電所は、電源開発株式会社(J-POWER)が100%出資し運転を行っており、年間発電量の5,400kwhは約15,000世帯分の消費電力に相当します。

葛巻小学校エネルギー学習会の様子葛巻小学校エネルギー学習会の様子

当町の風力発電の特徴は、これらの風車が全て標高1,000m超の山間高冷地で稼働している点です。近年、日本国内においては徐々に増加しつつある山岳部での風力発電であるが、それでも割合からすれば海岸部での運用が圧倒的です。風況の良い山岳部で風力発電の立地が進まない理由としては、自然環境や動植物の保護、景観問題、自然公園内での規制など様々ありますが、道路や電線といったインフラが存在しないことも大きなポイントとなります。これらインフラの整備をしなければならないとなると、事業費が莫大なものになり風力発電事業ではペイできない可能性が出てくるのです。当町の場合、昭和50年代に行われた大規模牧場開発により、標高1,000m級の山々3地点が牧場に生まれ変わり、それらを結ぶ総延長75kmの林道が整備され、さらに電線も引かれました。牛飼いをするためにのインフラ整備が高地での風力発電を可能にしたのです。現在もこの場所は牧場として機能しながら、エネルギーの生産基地にもなっているのです。

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新エネルギーのショールーム

当町では3基の風力発電の導入を皮切りに、これまで様々な新エネルギー設備を導入してきました。まず、平成12年に葛巻中学校の新築に合わせ50kwの太陽光発電を導入しております。発電した電気は校舎の消費電力の4分の1を賄い、また、学生への環境教育や住民への普及啓発といった効果も発揮しています。続いて平成15年に稼働したのが、酪農の町らしく牛のふん尿のエネルギー活用と資源循環システムの構築を目的とした「畜ふんバイオマスシステム」です。くずまき高原牧場で育成している牛のふん尿を発酵させ、発生したメタンガスをガスエンジンで燃焼し発電を行います。さらに、発電時に発生する熱も利用できるというシステムです。また、発酵後のふん尿は、良質な肥料として牧草地などに還元できます。

葛巻中学校太陽光発電葛巻中学校太陽光発電

くずまき高原牧場にはもう一つバイオマスプラントがあります。民間企業(月島機械(株))とNEDOとの協同実証試験設備として、平成17年に稼働した「木質バイオマスガス化発電」は、山林放置されている間伐材を有効利用し、発電と熱利用を行うシステムです。まず、間伐材をチップ化し不完全燃焼させます。それにより発生した可燃性ガスをガスエンジンで燃焼し発電機を動かします。畜ふんバイオマスシステムと同様、発電時に発生する熱も温水や温風として利用できるシステムです。また、不完全燃焼したチップは炭化して細かい炭となり、土壌改良材として農地に還元できます。

畜ふんバイオマスシステム畜ふんバイオマスシステム

木のエネルギーと言えば「木質ペレット」が代表的でありますが、当町では民間企業の葛巻林業(株)が木質ペレットの製造を行っています。元々、製造用のチップなどを製造している会社ですが、製造過程で発生する樹皮(バーク)の処理に苦慮していました。そこで、オイルショックも契機となり1981年にバークペレットの製造を開始し、以降30年近く一貫して製造を続けています。これに伴う燃焼機器の導入も進んでおり、公共施設や民間の老人ホームにボイラー5基、薪・ペレットストーブは約70基導入されております。また、町民が薪・ペレットストーブを購入する際は最大10万円の補助金を交付しています。

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森林(もり)の恵みを活かして

森林は水、空気、食糧、エネルギーの源であり、温室効果ガスである二酸化炭素の吸収源でもあります。ところが冒頭にも述べたとおり、現在の日本の林業は非常に厳しい状況に置かれ、荒廃している山林が非常に多い状態です。当町ではこの状況を何とかしようと二つの特徴ある事業に取り組んでいます。

一つは「ふるさとづくり基金」と称し、個人や企業から一口5千円の寄付を頂戴し、間伐材搬出や再造林への補助、学校など公共施設へのペレットストーブ設置に向ける事業です。もう一つは「くずまき高原環境の森づくり事業」というもので、民間企業から直接町内の山林を所有していただき、間伐や植林をしてもらうもので、葛巻型「企業の森」と言えます。現在、2社にご協力をいただき、その場所で毎年植樹祭などのイベントも開催しています。

これらは今後、日本国内で炭素税や二酸化炭素の排出量取引制度が始まった場合に、企業の温暖化問題に対するCSRを果たすうえでの一つの方式になりうると考えいます。また、財源が乏しい地方自治体が都市、民間企業などの協力を得て連携した事業を行える形でもあります。

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周回遅れのトップランナー

地域資源を有効に活用することはこの町、住民のアイデンティティであると感じます。例えば昔、電気が通っていなかった集落では、沢の水を使った自家製の水力発電でテレビを見たり、ある集落では風力発電を試みた人達もいたそうです。酪農、林業に関してもそうですが、何もないからこそあるものを有効に活用する。古くから葛巻の住人はそうして生き抜いてきました。こうした先人の知恵や努力が現在の葛巻の礎をつくり、その上に第三セクターや新エネルギー事業が成り立っているのです。

よく視察などで「三セク経営や新エネルギーの導入による成果は?」と聞かれます。当然、観光客増加による経済効果もありますが、一番の成果は「町民が自信を持った」ことです。一昔前は余所に行き「葛巻から来た」と恥ずかしくて言えませんでしたが、今は胸を張って言えるようになりました。

葛巻のように、高度経済成長から取り残され、バブル期のリゾート開発からも相手にされずお荷物扱いされてきた自治体は全国に山ほどあります。しかし、そうした自治体にこそ、今の日本が抱える「食糧・環境・エネルギー」問題を解決できるだけの資源が潜在します。都市には金融や経済の機能があり、農山漁村には食糧やエネルギーの生産機能があります。お互いが日本の抱える問題とその機能を自覚し、連携できるシステムを構築しなければ、持続可能な社会など夢物語に過ぎません。

以前、取材に来た海外メディアが当町のことをこう表現しました。「周回遅れのトップランナー」と。これからも地域にある資源を最大限活用しながら、住民が幸せを感じる町として、また、周回遅れでも農産漁村のトップランナーであり続けるよう努力したいと思います。 

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