全国町村会

地域住民による集落活性化への挑戦
〜「森の巣箱」で甦った床鍋集落〜

高知県津野町

2651号(2008年9月1日)
企画調整課長 高橋 正光

はじめに

不入(いらず)渓谷の苔むした岩間に湧き出した清水が生き物のように原生林の間を滑り落ち、やがて小さなせせらぎとなり、源流の人々の命を育み、流域に様々な恵みを与えながら大河へと姿を変えて太平洋へと流れ出る最後の清流四万十川。(旧東津野村)

不入山に並び立つ鶴松森(かくしょうもり)に源を発し、天然記念物のニホンカワウソが日本で最後に生体確認された、澄み切った清流新荘川。(旧葉山村)

それぞれに“最後の清流”を有する2村が平成17年2月1日に合併し、津野町が誕生しました。

津野町は、高知県の中西部に位置し、面積198.22平方kmで、人口6,862人。総面積の約9割は森林で占められる典型的な中山間地域であり、西北部には日本三大カルストのひとつ「四国カルスト・天狗高原」を有する自然豊かな町です。

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集落が消滅する

床鍋集落は、津野町の中心部からも、また周辺地域からも急峻な山に遮られ、辺地地区にも指定されている山間の小さな集落です。

この地区は、かつては山景気に沸き、小中学校も存在する活気のある地域でしたが、時代とともに過疎化・高齢化が進み、集落機能の維持さえ危ぶまれる状況でした。

ニホンカワウソが確認された清流新荘川ニホンカワウソが確認された清流新荘川

このような中、集落の有志数名から「このままでは、集落が消滅する。地域の活性化に取り組みたいが何から手をつけていいかわからないから行政支援ができないか」という申し入れがありました。

このときに、行政が提示した“条件”が、『主人公は集落であり、集落全体が汗をかくこと。そしてその責任は集落代表者でも行政でもなく、集落全体の責任である。その間、行政としてはサポートに徹する。』というものでした。

このような合意に基づき、集落と行政による二人三脚の集落活性化がスタートしました。

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芽生えた“自信”

活性化会議がスタートし、「何ができるかわからないが何かをやってみよう」ということになりました。

この「行動」を選択した背景には床鍋地区の実情がありました。同地区は隔絶された地域性から行政サービスにも格差が生じており、少なからず行政に対する不信感があったほか、地域全体に無気力感といったような雰囲気が漂い、何かに向かって行動を起すような力強さはなかったのです。

最初のうちは、地域づくりを意識しすぎた大型イベントであったり、多額の経費が予想されるハード事業を要するものであったりと、活性化会議での意見は素人集団には荷の重すぎることばかりでしたが、「視点を変えよう!」という声がひとつのきっかけとなりました。

大勢の人で賑わう夏祭り大勢の人で賑わう夏祭り

集落唯一の基幹道路は、転出者が植林をしたり、人工林の価格低迷から地域住民自らが放置したりしてできた“森林トンネル”状態。その結果、空も望めず、清流さえも目にすることができないありさまで、道の先に集落が存在することも想像できない状況でした。その森林を“集落の支障林”と位置付け、伐採する行動を開始したのです。

伐採後、集落は見違えるように明るくなり、広くなった空を見上げながら「すっきりしたね。良くなったね。」という会話があいさつ代わりになりました。そして、何よりの収穫が、森林所有者の洗い出しから、交渉、伐採までの全ての作業を集落住民の力で完結したことにより自信が芽生え、その年の“夏祭りの復活”へと繋がったことです。その夏祭りでは、久しぶりに里帰りした人々に少しだけ変わり始めた床鍋集落を披露し、満足げに語り合うリーダー達の姿がありました。

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自信から確信へ!

集落の活性化は第二段階へと進みました。支障林の伐採や夏祭りを毎年続けながら、地域活性化会議はすでに50回を超しました。次の課題は、地域の将来像を描くことです。

この頃、住民たちは床鍋の将来をとことん考えようと『床鍋とことん会』を結成し、「この地域には何が足りないのか」「地域の誇れるものは何か」「自分たちは何がしたいのか、何ができるのか」を探るため、地域を歩き、ワークショップを開催しながら精力的な取り組みを行っていました。

並行して、集落から役場に通じる生活道路の整備活動を展開し、その取り組みが行政を動かし、高知県が国の「ふるさと林道緊急整備事業」の指定を受け、中心部と集落を結ぶ1,000メートルのトンネルを含む道路整備をスタートさせました。この道路整備は、これまで隣接市を迂回し、30分以上要した役場までの時間的距離を一気に8分程度に短縮しました。

このことにより、自らが描く地域の将来像が現実になることを住民一人ひとりが確信し、自分たちのための計画作りに邁進することとなりました。

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やっぱり学校再生!

その後、行政と一体となった活性化会議は100回を超しましたが、その結論は、『床鍋集落の歴史も将来も学校抜きでは語ることができない。できる限り現物を残しながら、学校を地域活性化の中核施設に再生する。』というものでした。

森の巣箱の居酒屋での団らん森の巣箱の居酒屋での団らん

中核施設の機能としては、@集落生協(集落コンビ二)、A居酒屋、B宿泊施設、C合宿施設−の4つがあります。行政が事業導入によりこの機能を整備する一方、床鍋集落全員が出資し、経営を行う公設集落営方式で運営することを確認し、事業導入を図りました。

建設では、設計の段階から地域住民参加を徹底し、設計変更においても住民意向を充分に盛り込んだものとし、この計画は、住民参加型ではなく住民が作った計画となりました。

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「森の巣箱」の入学式

施設は、集落を巣立っていった人たちがいつでも気軽に戻れるようにとの思いをこめて、「森の巣箱」と名付けました。

落成セレモニーは「入学式」として地域リーダーたちが企画し、大勢の出身者も参加し、盛大に執り行われました。

オープン以来、祝祭日、夏休みにはかつて経験したことのない賑わいが生まれ、宿泊者数、販売目標額共に計画を大きく上回り、運営担当者もうれしい悲鳴を上げながら地域雇用の役割も充分果たしてきました。

この間、訪れる人々とスローな時間を共有し、その交流を縁に、「森の巣箱」で結婚披露宴を行う県外の若者数組が出るなど、新たな“出身者”といえる人々との交流が始まりました。

また、オープン2年目から実施している環境イベント『蛍まつり in 巣箱』も1,000人を超すイベントに成長するなど、更なる交流拡大へと地域住民が一体となって取り組んでいます。

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ご褒美と検証(課題)

平成19年度には、全国過疎地域自立活性化優良事例において総務大臣表彰という大きなご褒美をいただきました。床鍋集落の活動は現時点では、順調に推移していますが、その要因としては、廃校再生システムが集落営であり、その機能が「集落生協」「居酒屋」「宿泊施設」であり、単なる宿泊施設ではなく1年を通じて空間利用を設定し、地域の生活支援としても機能する複合拠点として再生した点が評価され、マスコミ関係にも大きく取り上げていただき、情報発信ができたことがあげられます。

森の巣箱「森の巣箱」の中核機能を担う集落生協

また、この事業は長期間にわたってソフト事業を展開した後にハード事業に移行(ソフト6年、ハード2年)したものですが、あくまでも「施設整備ありき」で出発したのではなく、事業を導入できない場合や財政事情によっては「夢」に終わる場合があることを前提に取り組んだため、非常に粘り強い取り組みとなったことも成功の要因と言えるでしょう。その粘り強さが、地域住民の力と責任感に変えられて、「森の巣箱」の運営に生かされています。

森の巣箱「森の巣箱」の中核機能を担う居酒屋

「森の巣箱」の今後の課題は、事業自体を検証することにより、より明確になるものと考えています。

まず第一点として、現状を過信することなく心の交流を大切にし、一度訪れていただいた方々に再度訪れていただく更なる工夫をすることです。現在の巣箱人気はそのシステムや話題性により、メディアの方々による予想以上の情報発信ができている面があるからです。

次に第二点として、原点を再確認することです。巣箱の原点は「集落生協」です。

集落全員が経営者であると同時にお客でもあります。大きなスーパーで買い物をした場合、100円の商品は95円で買うことができるかもしれません。巣箱では、同じ商品は100円のままですが、集落に25円の利益が落ちます。住民全体で生活用品を買い支えることにより、「森の巣箱」がより長く、元気に運営できるシステムであることを再確認し、実践することが最も重要です。

かつて、集落の消滅を危惧し、無気力感さえあった集落が、住民の活性化への挑戦により、年間3,000人以上の交流を生み、津野町内でも一番元気な集落に生まれ変わりました。ぜひ一度訪れてみてください。

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