全国町村会

自然にやさしく・人にやすらぎの田舎(まち)
〜ブナ北限の里づくり〜

北海道黒松内町

2639号(2008年5月19日)
町長 谷口 徹

黒松内町の概要

黒松内町は、北海道南西部にあり、札幌市と函館市の中間に位置し、日本海と太平洋をわずか28qで結ぶ間にありながら直接海に接することのない特殊性を持ち、町の面積のうち76.3%が森林で、高山や平野が少なく、町土のほとんどが丘陵をなし、中央部を朱太川が貫流して、これを幹線とした中小河川の流域の平地部に農地を形成しています。

牧歌的風景酪農の町を象徴する牧歌的風景

気候は、日本海と太平洋の双方からの影響を受けるため、春から夏にかけて南南東の風が噴火湾(内浦湾)で発生する濃霧を運び、しばしば低温となり、冬は反対に北西のが大量の積雪をもたらし、近年は減少の傾向にあるものの、2.0mにおよぶ年もあります。

本町は、安政3年太平洋側長万部から黒松内を経て日本海側歌(うたすつ)に通じる陸路が完成以来交通の要衝となり、明治4年伊達邦成の家臣13戸の黒松内市街地入植から、各地に農場が開設されました。

明治36年には、函館〜熱郛間に鉄道が開通し、黒松内駅が開設されてからは鉄道のまちとしてにぎわいを見せていましたが、昭和3年の室蘭本線開通によって町からは鉄道関係者が減り、再び農業のまちとしての道を歩み始め、前記した独特の気象条件から乳牛飼育に力を注いできました。

また、民間法人が中心となり、社会福祉施設の充実に力を注ぎ、昭和の時代は「酪農と福祉の町」として評価されていました。

人口は、3村合併時の約7,500人をピークに減少し続け、今年3月末では半分以下の3,300人を割り込むまでになっています。

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自生北限の天然記念物 歌才ブナ林

本町には、ミズナラなどが少し混在していますが、殆どブナの純林状態で自生している、面積約92ヘクタールの歌才(うたさい)ブナ林があります。

歌才ブナ林は、市街地と隣り合わせで、人々が気軽に散策できる場所にありながら手付かずの状態であったことが学術的に評価され、昭和3年に国の天然記念物に指定されています。

さらに、歌才のブナの特徴として、幹を真っ直ぐに空に伸ばし、梢の方にこんもりと葉を広げている様子から、「北のヤシの木」という人もいます。

歌才自然の家歌才自然の家

ブナは、ヨーロッパでは、繁栄のシンボルとして「母なる木・マザーツリー」と呼ばれているように、歌才ブナ林は、その実をリスたちや虫たちの食料として提供し、その葉は光合成により空気の清浄化の役目を果たし、落ち葉は腐葉土となり雨水を吸収して、その水はやがて町内を貫流する朱太川に流れ込み、清流にしか棲まないヤマメやアユを育てるなど豊かな自然を育んでいます。

歌才ブナ林は、天然記念物に指定された後も、太平洋戦争末期には、木製戦闘機のプロペラ材として、戦後には村の財政的理由から、2回の伐採の危機に直面しましたが、地元町民や学者など先人たちの懸命な努力により、それを免れたという歴史を持ちます。

また、昭和61年にブナを「町の木」として指定し、このころから本来木偏に無と書くブナの漢字を、当て字で木偏に貴と書く漢字を用いるようになり、特産品や交流施設のネーミングに活用するなど、町民のブナに対する思い入れは一層強いものになりました。

ブナセンターブナセンター

昭和63年、天然記念物指定60周年を記念し、ブナを通して自然と人とのかかわりを問い直そうと、ブナフォーラムを開催。

その5年後の平成5年には、寿都町、島牧村を加えた3町村をステージに、講演会やシンポジウム、ギターコンサート、写真展などを開催し、ブナ林が語りかける「未来へのメッセージ」を様々な角度から探りました。

平成10年には、「食うべ・語るべ・くろまつない」とサブタイトルを付けた3回目のフォーラムを開催し、同年、歌才ブナ林が今日まで守られてきた記録をつづった、町民有志による市民劇場「北のヤシの木」が上演されました。

天然記念物指定80周年を迎える今年は、世界各地からブナ林研究の第一人者を招き、歌才ブナ林の重要性や地球温暖化との関係などを解説していただく講演会をメインに、4回目の国際ブナフォーラムを開催します。

オートキャンプ場オートキャンプ場

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ブナ林とまちづくり

昭和60年、町は10ヵ年の総合計画を策定し、基本構想の具現化に当たり、町民有志15名による「まちづくり推進委員会」を組織し、将来の黒松内町のあるべき姿の検討に入りました。

昭和61年には、全国で計画や実行に移される大規模リゾート開発をよそに、可能な限り地域内の人材・資金を活用し、都市と農村の交流をまちづくりの基本理念としたヨーロッパ型の農村づくり「ブナ北限の里づくり構想」素案が、まちづくり推進委員会から町に提言されました。

昭和63年、町はこの提言に基づいた構想の全体計画を策定し、平成元年度事業に着手しました。

黒松内温泉黒松内温泉

本町においても、このころ、ゴルフ場・スキー場・ホテルの三点セットの開発の打診がデベロッパーからありましたが、私たち黒松内町民は、歌才ブナ林をまちの象徴とし位置づけ、今日的な価値を再評価したうえで、朱太川・牧歌的農村風景・地域の生活文化等の資源を生かした、自らの手によるまちづくりを選択しました。

そして、まちづくりの目標を、これまで一般的に指標としていた定住人口の増加から交流人口の増加に置き換えました。

パンやハムなどの特産品パンやハムなどの特産品

日本では、ヨーロッパのように週末や長期休暇を田舎でのんびりと過ごすという習慣がなく、これをどのように取り入れるかを検討し、最に自然体験学習宿泊施設「歌才自然の家」を整備して、ブナ林散策、子供たちの野外活動の拠点づくりをしました。

次に、ブナに関しての知識の提供、黒松内の素材を生かした体験メニューづくりのために、木工房・食工房・陶芸工房を備えた「ブナセンター」、自然の中で家族のふれあいを楽しむ「オートキャンプ場」、都会の生活や野外体験での疲れを癒すための「黒松内温泉」を整備しました。

ヨーロッパの農家民宿では、家庭ごとに、手づくりのチーズ・ソーセージ・パン・ワインで、お客様をもてなすといわれています。

本町では、町レベルでそれらを提供できるよう、地場の産物に付加価値を加える形で、特産物手づくり加工センター製チーズとソーセージ、特産物展示販売施設製パン、地場産ぶどうを原料にしたワインをそろえ、オリジナルの味を御用意しています。

特産物加工センター特産物加工センター

ブナ北限の里づくり構想が住民から提案されたことを踏まえて、交流施設の運営に民間のノウハウ・資金・機動力を生かすため、第3セクター「潟uナの里振興公社」を平成元年に設立し、社長に民間人を迎え、平成3年の歌才自然の家のオープンと同時にレストラン厨房・清掃業務を任せ、次いで、平成10年の黒松内温泉のオープン時には、飲食・売店部門を任せました。

平成12年には、地方自治法の改正に伴い、両施設の管理運営を全面委託し、さらに、平成14年には、道の駅(特産物展示販売施設)の管理運営を全面委託(現在は指定管理者として3つの施設を運営)するなど、住民による主体的な交流施設の管理運営が行われています。

道の駅道の駅

歌才自然の家やブナセンターなど主要交流施整備が整った平成5年に開始した観光客入込み調査は、約46,000人を数えて以降年々増加し、黒松内温泉や道の駅の整備後の平成12年度には、約20万人を擁するまでになり、施設の新設効果が薄らいだ以降も概ね17万人で推移しています。

また、これら第3セクター運営及び町運営交流施設は、正社員からパートを含め60人を超える職員を採用し、人口3,300人弱の本町にとって、大口の雇用の場となり、町の振興に大きく寄与しています。

平成16年11月、これまでの地域の宝としてのブナを活用したまちづくりの「思い入れ価値」と、歌才に加え添別(そいべつ) ・白井川の3つのブナ林が群生する地理的・学術的価値が評価され、本町のブナ林は「北限のブナ林」として、次代に引継ぎたい有形・無形の財産である「北海道遺産」52の1つに選定されました。

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まちづくりの第二ステージ

ヨーロッパでは、早くから景観や環境に配慮した取組みが行われていましたが、本町も北限のブナ林や美しい農村を次代の子供たちに引き継ぐため、これらの景観や環境を保全し続けなければなりません。

交流施設などの公共建築物は、屋根の形や色彩などに配慮し、農村でのランドマークとしての機能を果たせるように整備していましたが、平成7年、本町で初めての優れた景観づくりの基本方針「ブナ里景観ガイドプラン」を策定し、景観の重要性を町民や関係機関にも広く訴えました。

翌平成8年には、ふるさと景観条例を制定し、奨励制度を設けて個人住宅の色彩配慮、廃屋・廃自動車撤去などを手がけたことにより、ヨーロッパの農村のような色彩の統一感が生まれ、来訪者からは、「ほかのまちと違う落ち着きがある」と評価されるようになりました。

今年3月1日には、景観行政団体になりましたので、速やかに景観計画を策定し、一層優れた農村景観づくりを推進します。

景観と並んで重要な環境に関しては、平成9年「環境基本計画」を策定し、平成11年には「環境基本条例」を制定して、北限のブナ林や高層湿原として貴重な歌才湿原、アユやヤマメの生息する朱太川など、地域固有の環境の保全に取組むことはもちろん、地球温暖化がブナの北限に与える影響などは、小さな自治体ながら見過ごすことはできません。

京都議定書が採択された翌年の平成10年には、「地球温暖化防止フォーラムinくろまつない」を開催し、小さな自治体からいち早く地球環境の大切さを訴え、現在は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収し、豊かな川を育む森林を増やすための植樹にも取組んでいます。

フットパス「西沢」コースフットパス「西沢」コース

イギリスには、国内にくま無く自然発生した小道「フットパス」が張り巡り、美しい自然景観、懐かしい田園風景、古い街並みを結び、多くの人々がそのフットパスを余暇として歩き楽しんでいます。

本町でも、「歩く」スローな視点から、車では見過ごしがちな景観や環境のすばらしさを、注意深く見つめて、満喫してほしいと考えています。

フットパスは、今ある道を活用し、下草刈りする程度で、自然に負荷をかけることなく取組むことができ、交流施設を結ぶ役目など、新たな都市との交流事業として注目を浴びています。

本町では、町民ボランティアと町職員が連携し、除草作業、案内看板・道標の設置、イベントの開催などに取組み、3つのコースを整備して、総延長22qが歩行可能になっています。

このように、自らの行動により郷土を守り育てる心が町民に芽生え始め、日本百名山にも選定されている「黒松内岳」のブナ林を再生するプロジェクトが、平成18年12月に立ち上がりました。

これは、黒松内岳のブナの密度が高く、ほぼ純林の状態を保っていながら、中腹で過去において伐採されササが茂っている箇所があることから、これを再生するため、黒松内岳の標高450m付近の4区画、計約4ヘクタールに種子をまくことに加え、苗畑を作り種から苗を育て5年後に黒松内岳に植栽する、2本立ての取組みです。

子供からお年寄りまで、そして学校の授業の一環として、町民参加の取組みが実を結び、今春の苗床には、たくさんのブナが芽生えています。

移住者向け分譲地イメージ移住者向け分譲地イメージ

交流施設整備、イベント開催、景観や環境に配慮した自然を守る取組みなどによってまちの魅力がアップするにつれて、交流だけでなく移住する方々が現れ始め、彼らによって民宿や環境雑貨店経営、木工や食料品製造といった経済活動が行われるようになり、町外者に対する町の魅力は一層高まるようになりました。

また、町内に点在する移住者の活動は、交流施設とともにフットパスで結ばれ、点から線へ、そして面への広がりとなっています。

これら時代の流れを的確に捉えた本町の各種取組みは、現在北海道が推進する移住政策とも相まって、本町への移住者や移住希望者を近年一段と増やす要因となっています。

ブナ北限の里づくり構想は、定住人口から交流人口に指標を変えていながら、結果として定住人口を増やす取組みにたどり着きました。

空家情報や先輩移住者の生活実態など、移住に必要な情報をホームページでタイムリーに紹介し、北海道での田舎暮らしを手軽に体験できる「ちょっと暮らし」住宅を整備、移住者が移住後に孤独にならないための交流組織「ブナ里交流町内ネットワーク」を設立し、移住対策を近年の重点施策に位置付けて取組んでいます。

今年度は、移住者向けの無償・格安分譲地7区画を整備しますので、「ブナ北限の里くろまつない」の良さを御理解いただける方々に、是非御利用いただきたいと思います。

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21世紀のブナ北限の里の姿

農村特有の田園風景、牧歌的風景は、農村の「生業(なりわい)」がもたらすものであり、食糧に負けず劣らず農業が生み出す重要な産物です。

本町では、自然と共生した20年間の取組みがこれらを磨き上げ、一層魅力ある農村空間を築いてきました。

この素材を生かしながら、小さな農村でも、住んでいる人が活き活きしている田舎を守り続けなければなりません。

そのためにはこれからの時代、地域住民、行政、そして町外にいる黒松内ファンが助け合いなが取組む協働のまちづくりが不可欠で、そのことを自覚して行動していくことにより、新たな黒松内ファンを生み、新たな交流・移住につなげ、黒松内町しかありえない黒松内オリジナルの「自然にやさしく・人にやすらぎの田舎(まち)」を次代に継承していくことが課題となります。

ブナ北限の里づくり構想は、これまで各地で見られた同種の事業が、テーマやコンセプトに統一性がなく、点の存在しか確認することができない事例が多い中で、「21世紀の国土のグランドデザイン」が策定される10年以上前ら、単なる観光開発ではなく、地域の財産である北限のブナ林を核にして、河川などの自然環境や交流施設群が有機的に結びつき、それぞれの機能を有効に発揮しながら、次のポイントへと導いています。

21世紀の黒松内町は、町民の財産である地域資源を、持続可能な利用の仕方で来訪者に対し提供しつつ、更にまちの魅力を高めながら、ブナ北限の里らしい自然・農村空間づくりが継承されていきます。

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