全国町村会

「かわうち興学塾」で学力向上をはかる

福島県川内村

2614号(2007年9月10日)
川内村長 遠藤 雄幸

村は人なり

「村は人也」

詩人草野心平から川内村へ贈られた書であり、代々村長室に掲げられている戒めである。

天山文庫天山文庫

昭和28年、天然記念物モリアオ蛙の生息地「平伏沼(ヘブスヌマ)」のモリアオ蛙の縁で村を訪れることになった詩人草野心平と村民との親交は厚く、同氏を名誉村民に推戴、毎年木炭100俵を贈ったお礼に蔵書3,000冊が寄贈された。これを契機に文庫建設が行われ、昔アジア大陸の極奥部をつらぬき東洋と西欧文明交流の道となったシルクロードにそびえる天山(てんざん)山脈なぞらえ、文庫を通して、みちのくと中央の文化の交流、人と人との出会い、融合の願いを込めて「天山文庫」と名付けられている。

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村の概要

川内村は、福島県の浜通地方、阿武隈高地の中部に位置し、東西15km、南北13kmで総面積は197.37平方km、人口は3,252人で高齢化率が33%を上回る少子高齢化が進んでいる過疎の山村。村の総面積の約90%が山林で占められ、農地は970ヘクタールで稲作主体の兼業農家が多い地域である。

村の風景村の風景

公共交通機関は未発達、商業施設や病院、県立高校のある海岸部に行くためには、自家用車又は1日4往復の路線バスの利用で50分程度を要することから、交通の手段を持たないお年寄りや学生などにとっては、不利な地域である。

このような状況の中で、平成15年3月に10年間の長期計画である「第3次川内村総合計画」を策定した。この計画では、将来像を「人と自然が共に輝き、健康で文化の漂う活力のある村」として、定住人口の増加が望めない今、交流人口の拡大を図りながら、地域活性化のための施策を展開している。

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本村における教育の現状

教育の施策では、基本計画に「心の豊かさとゆとりの村づくり」、本村教育委員会の教育目標には「未来を拓く心豊かなたくましい人間育成を目指して」をスローガンに掲げた上で、努力目標として10項目の施策を定め、学校教育、社会教育などの学習環境の確立と学習ニーズに応えるべく事業の推進を図っている。次世代及び地域を担う人材育成と国際的リーダーづくりも施策のひとつになっている。

川内小学校川内小学校

本村には、小学校(117人)と中学校(生徒数85人)が1校ずつ設置されており、学校ごとに学校経営・運営ビジョンを策定し完全学校週5日制の下、教育課程が展開されている。近年、児童生徒の学力の低下、学習意欲の低迷は本村ばかりでなく全国で叫ばれる大きな教育課題となっているが、本村をはじめとする過疎・中山間地域と都市部との教育環境の格差はますます広がる一方である。

本村の子供たちは、保育所から小学校・中学校まで同じ顔ぶれで学習生活をしており、そのため当然学力についての競争意識に欠ける状況にある。さらに民間運営の学習塾といったものはなく、このような教育環境の下で学習していることが、これまでの学力調査及び高校新入学テストの結果にも大きく現れてきた。川内村をはじめ、県内山間部の学校の共通テストの県平均点数を下回っているのは、このような状況が背景にある。

その原因は、子供たちの学習意欲の低下、家庭での学習習慣が確立されていないことに加え、保護者の教育に対する意識の低下によるものと分析している。学校教育に対し協力的な家庭と学校にまかせっきりの家庭に二分している状況にあって、学校だけが教育課程に基づいて鋭意努力しても学力は伸びてゆかないと考えられる。

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学力向上サポート事業を開始

このような状況を改善すべく「子供たちの学力向上サポート事業」に取り組むこととなった。この事業で、地域を担う人材育成を行うことにより、子供たちが自信を持って地域社会に大きく羽ばたける教育環境づくりを行おうとしたところである。

パソコンを使った授業パソコンを使った授業

学力向上サポート事業の事業計画は次のとおりである。

第1期計画を5カ年間とし、民間の学習塾と連携して、年度ごとに事業評価を行いながら効率的な運営をはかっていく。学習の場は村コミュニティセンター。基礎学力の確保を目的として、児童生徒個々の学習レベルにあったカリキュラムからスタートしていく。さらにインターネットや衛生通信を利用した学習方法を取り入れることにより、地域格差によらない全国最新の学習情報を得て、より高い目標を実現するため「自学自習力」の構築を目指す。

事業対象者は、小学5・6年生と中学1・2・3年生で、指導科目は、小学生が国語・算数、中学1・2年生が英語・数学、中学3年生が英語・数学・国語・理科・社会とした。

小学生の指導目標は、将来の学力向上をより確かなものとするための基礎力構築、集中力・学習習慣と自立学習力の定着である。一方中学生は、早急な学力向上を図る必要もあり、英語を中心に徹底した授業と演習を実施する。さらにメディアを有効利用し、基礎力の構築、学習習慣と自立学習力の定着を目指している。

学習カリキュラムとしては、小学生が週2時間で長期休業中の授業も含め年間161時間、中学1・2年生は週4時間、中学3年生が週6時間あり、長期休業中の授業も含め中学1・2年生が年間204時間、3年生が254時間と設定した。

委託業者の選定にあたっては、

(1)塾生の平等な利用が確保されること。
(2)計画書の内容が、学力向上のため最大限に効果を発揮することができるものであること。
(3)村で策定する学習計画書に沿った運営を安定して行える人員、資産その他の経営の規模及び人材を有しており、又は確保できる見込みが
(4)事業委託は予算の範囲内とする。

を条件としてプロポーザル方式による提案を募集し、本事業にあたって、最も事業効果が期待できる提案をした業者を選定すべく公募した。

公募に応じた業者は、県内から5業者、県外からは2業者あったが、講師派遣に要する費用の観点から、県内からの提案があった業者5業者について提案内容の説明等のヒアリングを行い、学力向上サポート事業の事業効果が最も期待できる郡山市の学習塾を選定したところである。

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「かわうち興学塾」の開催

開講する村営の塾は「かわうち興学塾」と命名し、塾長を教育長とした。受講料については、保護者への負担を極力抑え受講しやすい金額とするため、小学5・6年生が月1,000円、中学1・2年生が1,500円、中学3年生が2,000円とし、テキスト購入に要する費用は受益者負担とした。さらに一人親世帯や要保護・準要保護世帯についての費用負担減免規定を設けている。

興学塾での授業風景興学塾での授業風景

開講にあたり学校川と学校行事等の調整を行い、開講する日を毎週水曜日と日曜日(中学生のみ)に決定。いよいよ村内の小学5年生から中学3年生までの対象者121人について募集を行ったところ90名の参加申込みがあった。受講率は74%に達している。学習塾のなかった本村において、保護者の期待の大きさが伺われるところだと考えている。

受講の入退は、月単位で受け付けしているが、事業実施して2カ月経過している現在でも、当初の申込者数で運営している。

本村の通学エリアは広範囲に及んでいることから、小学生の塾への送迎はスクールバスを運行しているが、中学生については保護者の送迎に頼っている。

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今後の展開

塾開設後2カ月経過したところで塾運営についての保護者会を開催し保護者の要望を聴取した。その結果中学生を対象として開設している毎週日曜日の講座を土曜日に変更することとした。今後の塾運営に対しても保護者・学校などの連携を図りながら、塾開設日に学校行事等が設定された場合、長期休業期間に振り返るなどにより柔軟に運営して、当初の目的が達成できるよう事業を展開してゆくこととしている。

かわうち興学塾開設にあたっては、各方面から多数のご意見が寄せられたところである。時には痛烈なご批判をいただいたが、教育委員会が各自治体に置かれている意義のとおり、地域の実情・教育環境に適合した教育の方法があってしかるべきとの結論に達し村営の学習塾「かわうち興学塾」を立ち上げたものである。

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