全国町村会

「農」のあるまちづくり
〜町民とともに癒しの景観を守る〜

埼玉県宮代町

2611号(2007年8月20日付号)
産業政策室長 新井 康之

宮代町の概要

東京から東武伊勢崎線に乗り、車窓から外を眺めていると、次第に都会から連続していたビルや密集した住宅の風景がまばらになり、やがて一面に豊かな田園風景が広がります。これらの光景は、姫宮駅を過ぎると間もなく見ることができ、いわば、都市部に近い田園風景の町が私たちの町「みやしろ」です。

宮代町は、関東平野のほぼ中央部にあり埼玉県の東北部に位置します。東西2q、南北8qと北西から南東にかけて細長い形をしており、わずか15.95平方キロメートルの小さな町です。東武鉄道が町を縦断しているという好条件のもと、農村から都心への通勤圏の町へと変わり、いわばベッドタウンとして昭和40年代以降人口が急増し、現在の人口は約3万4千人を数えます。

宮代町は、昭和30年に須賀村と百間村が合併してできた町です。町の名は、百間村の総鎮守姫宮神社の「宮」と、須賀村の総鎮守である身代神社の「代」をそれぞれとって宮代(みやしろ)町が誕生しました。農地と住宅地が共存するこの町は、稲穂を揺らす風を肌で感じることのできる、都市と田舎の交差点にあたる小さな町です。

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そもそもの始まり

「農」のあるまちづくりは、平成4年度に実施されました町職員による政策研究セミナーの成果として提案され、実現したものです。首都圏40キロにありながら、田園風景と大宮台地の成す雑木林が広がる景観、農業用水を中心とした水の流れ、農家の屋敷林等が開発されずに残っていましたが、それらの景観が心を癒す地域資源であったにもかかわらず、都市化の波に流される危機に直面してきたことがきっかけになっています。

当時の住民意識調査で、この地に住みつづけたいと応えた方々が実に83%にも上り、その大きな理由として自然環境の良さが上げられていました。しかし、宮代町は関東平野の真っ只中、当然ながら海も山もありません。宮代にとっての自然環境とは、田んぼや畑、農業用水や屋敷林が織り成す水と緑であり、「農」の風景そのものだったのです。

産業祭産業祭

ここで一番のポイントとなること、それは、誰もが素晴らしいと考えるこの「農」の風景を誰が維持してきたのか?そしてこれからも維持されていくのか?ということでした。

町民のそのほとんどがサラリーマン世帯です。つまり、人口比でわずか6%の農家の方々が営み、この風景を支えていたという事実です。高齢化社会の入口にあって年々厳しい環境になってきたことを町民全体の共通認識にしたところからが始まりでした。

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みやしろマーケット委員会と「農」まち委員会

宮代の畑で何ができるの…?できたお米はどこへ行くの…?巨峰が特産物ってなっているけど、町民はなぜ食べられないの…?私たちが農地を守る…? 農地が環境に良いのはなぜ…?

と様々な疑問と目の前に広がる農地ではあっても、何もできないジレンマとの戦いのような委員会が二つ誕生しました。そのひとつが町民参加の宮代マーケット委員会、もうひとつが職員のプロジェクト「農」のあるまちづくり委員会です。

やれることからやって見よう!を合言葉に、様々なアイデアと理想をぶつけ合い、「農」をテーマとした町づくりの可能性、環境、福祉、教育、経済とあらゆる角度から研究が始まりました。まもなく、喧喧諤諤、凹凸の会議から15年を迎えようとしていますが、宮代町のまちづくりの理念として「農」のあるまちづくりが定着し、先人から継承されてきた田畑や屋敷林、雑木林などの「農」の風景やそれにかかわる知恵や営みを、宮代町の個性、資源として捉え、これを維持修復するとともに、あらゆるまちづくりに生かしていこうとする考え方になり得るとは誰しも考えていなかったことでしょう。

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足元から見つめてみよう!

まず、始めに取り掛かったことが、宮代版農業白書の作成でした。農業経営、土地利用の現状と後継者や農業機械の更新等農家の意識調査です。その結果は、非常に厳しく、高齢化と後継者不足に歯止めはかけられない状態でした。農地が危ない…と危機意識を新たにした瞬間でした。気がつくと水路もヘドロ化し、めだかやタニシが減少しアメリカザリガニの天下です。世間では、輸入野菜がはびこり食糧需給率は数%と悲しい現実…かといって、農業を手伝うわけにも行かず、どうしようという願いを込めてシンポジウムを開催しました。

巨峰市 長蛇の列巨峰市 長蛇の列

そこで出された提案は、農家が元気になるために町民が宮代産のものをたくさん食べようということでした。シンポジウムより先に始められた夕市をベースに、農家と消費者の接点を近くし、ゆくゆくは商店や学校給食へも提供していこうというものです。秋には、巨峰市を開催して初めて町民が宮代産の巨峰の味覚を楽しみ、春には桜市を開催して野菜や手作り加工品のPRを図っていきました。

マーケット委員会では、特産品の開発にも着手し、減農薬無化学肥料のPB米「みやしろっ子」をはじめとして、メイドイン宮代商品の開発基準を作成して町内の商工業者の協力を経て、宮代産の農産物や巨峰を使った商品開発が始まりました。

次のステップは、農産物直売所建設への展開。役場の近くに、アンテナショップを建設して、農家は商品(売れる農産物、消費者ニーズ、梱包)作りを勉強し、消費者は味や形の安定しない農産物を食べて良い野菜作りの応援を始めていきました。生産者の顔が見える、朝取り野菜はたちまち人気者になり、ふぞろいの野菜たちの美味しさを覚えたはじめの一歩だったのです。

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地域活性化のポイント

「農」のあるまちづくりは、現在町づくりの理念として浸透し、その象徴、縮図として「新しい村」が整備されました。「新しい村」の整備にあたっては、さまざまな市民参加によって検討され、シンポジウムの開催や夕市、巨峰市などのイベントをとおして、農家、非農家の方々との融合、意識向上を図ってきました。

「新しい村」を拠点として、「農」のあるまちづくりを町民相互理解、町民参画のもとに推進していくため、

@地域内自給を目指した農産物直売所
A加工体験等の食育ふれあい
B土に親しみ農作物を育てることで農業を身近なものとして理解する都市と農村の交流
C農業機械化施設を充実させて生産活動の支援を目的とした複合施設を建設していくことになりました。

平成13年9月に完成した新しい村は、東武伊勢崎線東武動物公園駅からわずか1qと中心市街地から近い場所にもかかわらず、町の原風景である水と土と緑の宝庫です。およそ13のエリア内には、さいたま緑のトラスト第5号保全地に指定された山崎山の雑木林や、開墾当時の掘上げ田(ほっつけ)が残り、カワセミが飛来する貴重な自然環境が残っています。

ハーブ園ハーブ園

これらの昔からある自然豊かな里山の風景を、町の財産として維持していこうという「農」のあるまちづくりの理念のもと、農村風景や水辺等に配慮した農の息づく快適で自然豊かな空間として、農産物直売所、農産物加工施設、市民農園、ハーブ園、歴史的水田(ほっつけ)、農の家、育苗施設、農業機械化施設などを整備しました。

新しい村の管理運営は、町を始め町民や企業が出資して設立した巨Vしい村が指定管理者として受託し、農産物直売所の経営、体験学習事業の企画・運営、農作業受託等の農業支援など幅広く事業を展開しています。職員の多くは町内在住者が従事し、町民主体的な経営が行われています。

市民農園市民農園

また、13haに及ぶ新しい村の管理には多くの町民ボランティアが参画し、市民農園利用者や結の里いきいき塾、市民農業大学OB会、NPO法人水と緑のネットワーク、竹のアート実行委員会など、新しい村を拠点に様々な活動を展開しています。こうした町民ボランティアの参画を得て、農の息づく風景を保全し、心の潤いのある環境と共生するライフスタイルを「宮代らしさ」として創造する「農」のあるまちづくりが進められています。

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これからの課題

町内に「新しい村」という種がまかれてから6年がたち、農地活用や様々な人の交流、新しい仕事へと発芽した試みは着実に育み実らせています。これからは、巨Vしい村の組織を充実させ、新しい村の目的である3つのテーマ「地域内自給」「食育」「農業支援」を確実なものとしていくその過程で、できるだけ多くの交流人口を目指して町民相互の新しい村となれるよう、また、町づくり会社として自立していけるような経営を目指していきます。

@地域内自給

森の市場 結森の市場 結

農産物直売所「森の市場結(YUI)」では、利用する生産者組織を立ち上げて、品質の向上に努力、生産品目の増加、生産時期の調整を図り、年間をとおして充実した市場の経営を目指しています。生産者同士の研究や競争が良い結果を生んでいますが、そこへ到達するまでは、生産品目のだぶり、売れ残りが生産意欲を低下させるなど紆余曲折がありました。今では、職員も野菜ソムリエの資格を持ち生産者はもちろん消費者との間に立って野菜づくりと美味しい食べ方のアドバイスに努めています。

メイドイン宮代商品にこだわって、商品アイテムが少ない時期でも我慢の経営を続けてきたことが、生産者の見える安心安全の農産物ということが消費者に認められました。同時に、生産者の工夫の効果も現れ、充実した市場に生まれ変わってきています。

A食育

市民農園「結の里」を管理する農の家では、農・食をテーマとした講座を企画することで、食べることから、収穫体験、作業体験へと人々の行動が発展し、農に対する応援者が増えてきています。市民農園の利用者、体験学習の参加者などのネットワークができ、充実した余暇を楽しむ交流がなされています。

特に、歴史的水田を復元させた「ほっつけ水田」では、町内小学校の農業体験の場にもなっていますので、食育をとおして農環境を教えることができます。さらに、町内から近隣市町へ、さらには首都圏へとPRを広げ、農村風景を楽しんでもらうと同時に食育、新鮮素材にふれていただき、大地の大切さを知ってもらうための事業展開にチャレンジしています。今年度は、文京区立誠之(せいし)小学校や千代田区立番町小学校から体験農業に参加いただき、地元小学校との交流が始まっています。

B農業支援

農業サービス部門では、農作業の受託、遊休農地の受託、稲、野菜苗の育苗販売をとおして、農作業の軽減化を図るとともに宮代の農業を担っています。会社員としての若者の就農、新規就農者の育成等明るい兆しが見えてきました。

農業サービス事業として遊休農地を活用した農産物の栽培を行い、「村育ち」とネーミングして森の市場結や近隣のスーパーでの販売を行っています。すでに、約15ヘクタールもの田畑の作業受託が始まっています。それにあわせて、米の生産も育苗から乾燥調整まで一貫した管理体制の元で生産できるようになり、「村育ち」の生産販売の拡充を図るとともに、ますますお客様のニーズに合わせた安心安全の農産物の提供に弾みがかかります。

ほっつけ水田ほっつけ水田

学校給食の地域内農産物の供給についても、新しい村のオープン前は、町特産物の巨峰だけでしたが、現在は農産物全体の約3割にまで上っています。町内の子どもたちに、今後も顔の見える安心で美味しい農産物の提供をしていくために、生産者組織と力を合わせて新しい村農業サービスもプロの農業集団としてより一層の供給率拡大を目指しています。

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