全国町村会

せせらぎ遊園のまちづくり
〜農村がもつ潜在的自治力の回復をめざす〜

  

せせらぎ水路は、子どもたちをたくましく育む


滋賀県甲良町

2525号(2005年7月4日)  甲良町長 山本 日出男

町の概要

滋賀県甲良町は、琵琶湖の東部・湖東平野にあり、滋賀県の中央部を占める犬上郡のほぼ中央に位置し、鈴鹿山脈から琵琶湖にむかって拓けた地域。人口8,400人で減少傾向にあり、面積1,366ヘクタール、集落数13と、さほど大きくない平地農村である。

1990年、「躍進するせせらぎ遊園のまち」を合言葉に、町内14カ所で農業用水の分水工(用水を吐き出す施設)を親水公園にしたほか、沢ガニやホタルが棲む集落内水路整備、カブト虫や小動物が棲むことができる森整備などを、住民と行政が手をたずさえながら行っている。先人の卓抜した水利技術を生かし、町内を細やかに流れる多機能をもった用水路をモチーフにした、快適で豊かな「しっとり」としたまちづくりといえる。

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まちづくりの2つの背景

今から、25年前になるだろうか、甲良町は、なかなか合意形成が進まない閉鎖的な町政運営、赤字再建団体まであと一歩という財政危機を迎え、町民や職員もあきらめムードの混沌とした暗い状態であった。しかし、その暗いイメージがこれではいけないといった町を変えようというエネルギーとなり、当時39歳であった私が、町長選挙に出馬し、初当選を果たせたのは、この憂慮した町民勢力があったからにほかならないと考えている。

つまり、町行政の変革をせまり、住民主体の行政運営へと転換をめざそうとする政治的背景があったことに重要な意味を持っている。(心理的背景)

また、1981年に圃場整備計画、1983年に集落内水路のパイプライン化による用水改良計画が提示されたが、それが実現してくるにつれて、住民の間から、それまでの良好な農村らしい景観と生活環境が損なわれるのではないかという危機感がわきあがってきた。(実態的背景)

こうした背景は、自らの地域を他人に委ねることなく、一部の人のまちづくりから全体へのまちづくりへ、住民や行政職員に、田舎である甲良町を見直そうとする地域への誇りと愛着を取り戻す取り組みのきっかけとなった。

まさに、せせらぎ遊園のまちづくりは、自らの手で地域を浄化させる内発的な住民の志によって支え続けられていると信じて疑わないものである。

   

住民が水車が設置、ゴミは毎日掃除される

   

水路は時に学びの空間にもなる

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まちづくりの切り口にした公共事業

まちづくりの切り口は、ズバリ、「公共事業」である。住民の身近な生活空間である道路や水路、公園などを整備するにあたってこれまでは、行政担当者の設計をもとに地域関係者と協議しながら進めてきたことに対して、実際、日常的にその空間を使う地域住民がまず、簡単な絵などを描くことによる整備計画段階から住民参加を促す中で、その体制と手法を住民と行政が共に求めたことである。

特筆すべきことは、そのプロセスに大学教授など専門家による学習機会が盛り込まれ、住民と行政が共に高まる「学習のプロセス」を通じて、まちづくりの質を高めたことにある。

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まちづくりは学習と実践のプロセス

1990年に、第1次総合計画を策定し、「せせらぎ遊園構想」を提示する中で、農村景観の保全・整備を最優先し、住民参加のまちづくりの方向を行政の基本姿勢として打ち出した。

その姿勢のもとに、「ふるさと創生事業」後、町内13集落に一律100万円を交付して「花いっぱい運動」と「集落の顔づくり」という住民自らの手によるむらづくり推進を支援する事業を行った。結果的に、この事業は今日まで継続して行われており、このことは、個性ある各集落のむらづくり活動を継続させているひとつの原動力になっている。

同時に、この事業推進によって集落と行政が、情報を共有し、集落課題を共同に解決するための実践機会となっていることに注目している。

また、1988年に農林水産省で創設された「農業水利施設高度利用事業」「水環境整備事業」を導入し、地下パイプラインによって供給される農業用水の分水工を利用して「滝」「湧き水」などを設けた親水公園を14ヶ所に設置し、集落内水路7路線の景観整備事業を行った。さらに、「ふるさと創生事業」を引き継ぐ「地域づくり推進事業」(1990年から92年)により、圃場地区内の樹木を残して「虫たちの森」として3カ所を保全し、ふるさとの道路景観整備として6路線を整備した。これらの事業によって、住民が思い描く「集落の将来像」が絵に描いた餅に終わることなく実現していったことは、住民と行政職員のやる気と自信づくりにつながっていることの意味は大きい。

つまり、年数を重ね、試行錯誤を重ねる中で成長し続けている住民主体のまちづくりとは、住民と行政が共に悩み、知恵を出し合う地域学習と実践プロセスそのものなのである。

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「むらづくり委員会」と「せせらぎ夢現塾」

「むらづくり委員会」とは、1990年に町行政から集落に呼びかけ、現在、全集落に組織されている。

集落間で多少の違いはあるが、従来の集落役員組織を補完する諮問的組織としてだけでなく、実践活動組織としても多様な住民が参画でき、いろいろな提案を柔軟に受け止めながら活動が行われている。

組織面では、多くの集落が総務委員会(委員長、各部会長で構成)に区長が入り、意思決定を行い、その下に各事業を行う実行部隊として部会が設置されている。さらに、区長以下役員の任期が1年に対して、むらづくり委員の任期は2年から3年と複数任期となっている。

活動面では例えば集落計画作成でも、住民が一番知りたいところの集落のどの場所が、どれぐらい経費(地元負担)が必要で、何時ぐらいに整備が行われるのかなどがきめ細かに記す集落も出はじめている。これは、各戸から負担を強いる時に、執行部の説明責任、住民間の合意形成を図るために重要なことであり、確かな自治が営まれていると言って過言ではない。

今日、自立的なむらづくりが行われているが、最初からうまく事が運ぶわけなく、各集落とも試行錯誤を繰り返している。そういった中、むらづくりリーダーを養成するために、「せせらぎ夢現塾」という学習機会を設けた。

大学教授など専門家を講師に迎え、集落公民館で講座やワークショップ、国内の先進事例視察など塾生と先生が膝を付き合わせながらの地域学習会(機会を削除)は、同時に、各集落のむらづくり活動の質を高め、継続的な取り組みへと拍車をかけたといえる。そして、専門家との関係は16年経過した今日も続いている。

   

まちづくり協議会は学習の場

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新聞に紹介されたせせらぎ遊園のまちづくり

平成7年12月18日には、読売新聞の社説に甲良町のまちづくりがとりあげられた。タイトルは「広げたい自助と連帯の活動」で、その中で、甲良町のような取り組みは、「地域に生じた共同の役務課題を自主的に解決する地方自治の原点ともいうべき行動と評することができる」さらに、「地方分権論議が盛んだが、甲良町のような成果は、住民自らが行動をおこすことが住みよいまちづくりにとって何よりも先決である」とくくっている。

さらに平成14年7月22日には、朝日新聞の私の視点に投稿された千葉大学教授大森彌先生は、この中で「例えば滋賀県甲良町は、3年後の合併を前に住民自治の基盤を固めておこうとまちづくり条例を準備し、13集落の自治組織に約100万円の交付金を渡し、「地域起こし」を奨励している。【中略】地域自治への息吹を感じることができる。こうした試みは、自立した活動主体と相応の権限を制度化することで、さらに発展する」と論じられている。

これら新聞記事は、分権社会を構築する上で住民の身近な暮らしと関りの深いコミュニティの在りようが重要なのだと投げかけられているのではないかと思えて仕方がない。

甲良町のせせらぎ遊園のまちづくりは、このコミュニティの在りようや具体的にどのように育てていくのかを考える上で、参考になるのかも知れない。

つまり、農村における自治力を問い直し、新しく回復させることが求められているのであろう。

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志高くまちづくり条例を制定

甲良町まちづくり条例は、施行されてから、2年目を迎える。

その条例の「前文」には、古くから豊かな農村環境や地域文化により、各集落ごとに「自治の力」を培ってきたこと。部落差別という人権問題に直面する中から、お互いを認め合うことの大切さを学んできたということ。

さらに、「せせらぎ遊園のまちづくり」とは、住民自らの努力の積み重ねの成果であり、まちづくりを決して他人に委ねない決意をあらわし、次世代に負の財産を残してはならない責務など、これまでとこれからのせせらぎ遊園のまちづくりの「志」が力強く明文化されている。

   

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追い風が吹くであろう地域自治

三位一体の改革、第27次地方制度調査会答申など、地方自治をとりまく情勢は大きく変わろうとしている。

今後、いかなる時代を迎えるにおいても、求められてくることは、これまで、役所が一手に担っていた「公」を民間やNPOなどが担うことによる「新たな公」をいかにデザインするか、そして、市町村合併によって、これまでの基礎自治体の枠組みが変化しても、小さな単位での自治のまちづくりを支えるメカニズムを構築することにあると考えている。

今後、必ずや追い風が吹くであろう地域自治とは、その時代の身近な暮らしを共有するあらゆる人たちによって営まれる普遍的な行動である。

分権社会に必要不可欠なその営みを制定した甲良町まちづくリ条例の各条文を施策や仕組みとして具現化することを求め、みんなで育てあげることにより、地域自治の充実を図っていきたい。

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