全国町村会

砂丘と凧と雷と

石川県町村会長
 内灘町長
 岩本 秀雄


◇内灘は砂丘の町
内灘町は砂丘の町である。戦後の基地反対闘争のさきがけとなった「米軍試射場反対闘争」が、今から50年前にこの地で繰り広げられ”ウチナダ”の名が全国津々浦々にまで知られたのは、米軍がこの砂丘地を砲弾試射場として接収したことから起こったものであった。

時代は流れて、その当時155ミリ榴弾砲が何門も据えられていた辺りには、今では県立高校が建ち、広大な試射場のほとんどは、今や大規模な農地に変わったり、閑静な住宅地となっている。しかし、砂丘の姿は大きく変わったとはいえ、広々とした砂浜は今も当時のままである。

かつて、内灘砂丘は「不毛の地」と呼ばれていた。海抜50mを越えるまでにうずたかく砂を盛り上げるほど激しい風が吹き、その砂丘からの飛砂が太古以来何世紀にもわたって内灘の村邑を襲い、家々を埋没させ、また村ごと移転させ、鎮守の森すらも埋没される有様であった。内灘の歴史は文字通り飛砂との闘いの歴史であった。

◇防砂林の造成

荒涼とした内灘砂丘が緑に覆われ、そこに農地が開かれてゆくのは昭和30年代に入ってからである。それは試射場接収の見かえり事業として実施された防砂林によるものであった。アカシアの苗木を大規模に植林してゆくこの事業は昭和30年代を通して営々と行われたものだが、ちょうどその頃に内灘砂丘を訪れた三島由紀夫は、内灘砂丘が舞台となる『美しい星』という小説の中でこの植林の様子をまるで歴史証言のように描写している。ともあれ、古墳時代の初頭から活動が活発化して以降、何世紀にもわたって内灘の人々を苦しめた広漠たる砂丘は、この時初めて人間のカによって緑に覆われたのであった。

◇内灘は風と凧の町
内灘は「砂の町」であると同時に「風の町 でもある。この町に高い砂丘を築き上げたのは北陸地方特有の冬の季節風であった。今では砂丘は緑に覆われ飛砂は制圧されたが、海辺の広大な砂浜と風は、今も内灘の大切な風物である。この二つを活かして内灘町では、『世界の凧の祭典』を毎年ゴールデンウイークに行っている。日本の各地に凧の文化がある。また、同様に世界の各国にも凧の文化がある。つまるところ風のあるところには凧の文化があるようである。

平成元年から始めたこの凧の祭典は、今や我国を代表する盛大な凧揚げに成長してきた。内灘砂丘は、これまでに訪れた欧米やオセアニア、アジアなど世界の凧愛好家たちにも絶賛される最高のロケーションであるという。凧による町おこしもそうだが、風という負の財産を価値あるものに転換することの事業の一環として昨秋から砂丘の高台に発電能力1,500kw、高さ100mの巨大風力発電施設を町営で作った。今、これは冬の季節風を受けてフル回転し、力強く発電をしている。

◇世界的な冬季雷の町
内灘はまた「雷の町」でもある。ここの雷は冬季雷といって、真冬の雷である。雷というと一般的には積乱雲から生じる真夏のものだが、当地の雷は真冬にシベリアからの猛烈な寒気が日本列島に向かって流れ込み、ちょうどその下の日本海を黒潮から分流した暖かい対馬海流が流れていることから激しい上昇気流が発生して起こるものである。この冬季雷は世界的にも極めて珍しいもので、ノルウェーの北海沿岸地方とアメリカ東海岸の一部と、ここ北陸地方だけに見られる現象だといわれている。中でも内灘は海の中洲のような地理条件から北陸地方でも屈指の雷多発地帯なのである。そうしたこともあって風力発電の巨大風車を造る時には、この雷対策にも特に腐心したものである。ここには風車に並べて高さ105mの避雷塔を建て、誘雷装置を取付けたが、また同時にそこで捉えた雷の規模や性状などを把握するために雷撮影専用カメラや雷電流計測装置を設置し、地元の大学や高専と共同して世界でも珍しいという冬季雷の研究に一役かうことにしたのである。

◇負の財産を価値あるものに
 
寒風吹きすさぶ荒涼たる砂丘の地、そこを冬季雷が襲う。これまで、これらすべてが負の財産であった。しかし、今では広漠たる砂丘地は緑溢れる住宅街に変貌し、飛砂の元凶であった風は、風力発電に用いられ、砂浜は世界中の人々が集う『世界の凧の祭典』の格好の舞台となっている。

負の財産を価値あるものに変えてゆくのはその町を預かった者の使命ではないかと思っているが、今、私は最後に残された冬季雷を価値あるものに変えたいと考えている。雷の利用は容易なことではないと思うが、世界でも珍しい雷多発の土地柄という「地の利」を生かして手始めに子供達の雷学習に取組みたいと思っている。雷ではないが雪の研究家として世界的に有名な中谷宇吉郎は同じ石川県の人であった。この町にも彼のように自然の驚異に感動して研究者になる人が出ればと私の夢は広がる。まずは雷研究から初め”凧と雷の町”として何時の日にか世界にも発信してゆきたいと思っている。

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