全国町村会

慈父慈母なる山々

広島県佐伯町長 正木完

佐伯町は昭和30年、1町4村の合併によって誕生いたしました。一部が山口県に隣接し広島県の最西部に位置します。

町の中程に在(あ)る役場庁舎の位置が、標高291メートル、面積194.83平方キロ、林野率87パーセント、農地480ヘクタール、山地最高1,109メートル、河川小瀬川水系、河口大竹岩国瀬戸内海に入る。交通、広島市50分、廿日市市20分、大竹市25分、中国自動車道吉和IC35分、山陽自動車道廿日市IC30分、町の花サツキ、町の木アカマツ、岩倉温泉(ラドン泉)などの中国地方中山間地域の人口12,900人の自治体であります。

私たちの町はこのような生活環境で四季の折り折りを味わいつつ、健康で快い生活のできる「水と緑の町」を高く掲げ山河敬愛の町、佐伯町であります。

私は昭和62年3月佐伯町長に就任し今日に至っておりますが、佐伯町議会議長としての11年余にありましても、かつて佐伯町森林組合の創設運営に、また、通じて国有林、県行造林、近隣市町村の公有林等の治山、治水、緑化、営林、鳥獣保護等の広域共有の行政施策について、懸命に取り組んで参りました。それは農林地帯の行政にあるものの当然の使命であります。

その中で何時も有難いことだと感じますのは、どの市町村も住民の皆さんの表情が穏やかで、エネルギッシュな眼差し、子供たちの無邪気な輝き、みんな山間部のみなさんとの出合いで同じように頂く、清(すが)すがしい温かさであります。

このフィトンチッドを吸った様な温かさをみなさんどこで貰っていらっしゃるのだろうか、と出合いの都度喜びながら感謝しております。

それはみんなその市町村の山河からの賜りものなのだろう。森林からのプレゼントだろう。森林は水を育て、水は農林業生活を教え、小鳥たち、けだものたち、川魚たち、蝶や蛍などの昆虫たち、土の中が棲み家の生きものたち、草花やいろいろな果物(なりもの)たち、生きとし生けるすべてのものたち、ときに渡り鳥たちの季節の故郷ともなりながらの、この催合(もやい)の山河からの愛の清(すが)すがしさ温かさでしょうと私はいつも山に向かって感謝しています。

これまで長期にわたる職責や立場にあたって、諸々の課題について決断や明解に意図を表明し其の任に当たりましたが、特に困難な事柄に直面しましたときは、まわりの山々に向かって瞑目します。山は無欲に私を見つめてくれます。山は慎重を求めます、急ぐなとおしえます。熟慮へと導いてくれます。そして山は責任ある勇気を出せと、背中を押してくれるのです。その時清(すが)すがしい責任への情熱が高まるのを覚えるのです。

山々は私の大切な慈父慈母の存在です。もう何年も経過しましたが、町の屎尿処理場建設の情勢に迫られた際、私たちはいくら適法適正に水処理をしても処理後の放流は、下流の大竹市民の飲料水である小瀬川以外にないのです。苦悩の末、大竹市に佐伯町の屎尿を処理していただく様、お願いをいたしました。

佐伯町は誓いました。「水系流域の全山緑化に力を入れ、清冽豊富な飲料水を大竹市民みなさんにしかとお届けしますから」と、上流にある自治体として、町民として水源水質保全の役割を持つ地帯として熱心に協議相談をいたしました。

大竹市は佐伯町の自然を愛する発想と、水系を同じくする自治体と住民の友愛として受け入れて下さいました。

現在も小瀬川の流れのように両市町と住民の心の中に境界のない交流が続いているのであります。

これも慈父のように慈母のように、地域を、住民をすべて境界なく見守って頂く故郷の山河の導きでありましょう。

現社会は少子高齢化をはじめ、多様化する住民ニーズ、社会経済の推移と変化、自治体の行財政上の課題、地方分権の期待と適応等々、市町村の総合的力量を求められて来るとき、それぞれの町村地域のもつ、伝統・歴史・文化・人情・地勢気象交通等々、地域性と住民みなさんの意志を当然の基調として、現在(いま)、廿日市市、吉和村、佐伯町の3市町村は、合併を平成15年3月を目標に、鋭意新しいビジョンに向かって研究討議を進めている次第であります。

その大きな望みの1つに、3市町村の全林野が市民みなさんの「心のふる里」として敬愛して止まない山々となり、市民の暮らしをいつも静かに見守っていて下さる、慈父なる山、慈母なる山河として、市民みなさんの心の安らぐ、心の絆が1日も早く到来することを祈念して止みません。

私をよく、山の町長、と呼ぶ方がありますが実に光栄に思っています。四囲の山々に、感謝申し上げたくなる私であります。

「春山淡冶にして笑ふが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山は明淨にして粧ふが如く、冬山惨淡として眠るが如し」、私の好きな臥遊録の一詩を終筆に添えながら、慈父慈母なる山野への感謝といたします。

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