全国町村会

大雪に思う

福井県今立町長 辻岡俊三

福井県のほぼ中央に位置する今立町は越前和紙の産地であり、1500年の歴史と伝統が引き継がれ、正倉院には1200年前に漉かれた越前和紙が今なお生き続けている。毎年5月初旬には神と紙のまつりが神輿を担ぐ若衆達によって受け継がれてきている。

人はそれぞれに独自の時を刻み、ある瞬間を人生の節目として捉え、過去を見つめ直し新たなスタートを切る。いま正にすべての人々が21世紀という大きな節目を迎える。「1年の計は元旦にあり」の言葉も本年は少し趣きを異にする。

2001年の元旦、粉雪舞う神社境内にて手水を打ち、本殿にて還暦厄年のお祓いを受けた後、拍手の響きを背にして鳥居を抜けると、うっすら雪化粧した生垣の中に、真紅の寒椿が一輪、凛として咲いていた。

我家の居間には十数年前から「黄色い椿」の鉢植えが置かれている。椿の名は「金花茶」。中国の雲南省・広西省に自生する品種で、苗木を購入してから数年後に開花し、以後毎年ロイヤルイエローの花を付け正月を飾ってくれているが、今年は何故か開花が遅れた。

1月中旬に突然の大雪が県下を襲った。除雪態勢は充分に整えてはいたが、例年の暖冬予報に慣れ雪が降り始めてからもこれ程の大雪予測は出来なかった。雪国の屋根瓦には雪止めが施されていて、屋根に積もった雪が滑り落ちないよう工夫されている。住宅密集地に於いては、1度屋根から下ろされた雪の排雪作業は困難を極める。そこで限界まで屋根雪下ろしを見合わせることになる。ここからが地域の長老の出番であり、昭和56年、38年の豪雪は勿論のこと、それ以前の雪との戦いの経験がものを言う。空を眺め、軽い雪重い雪、降り止む時期を判断しながら屋根雪下ろしのタイミングを計る。真夜中の不気味な静けさの中で、天井のミシッというキシミ音は、地震の前触れの異様な唸りとは違った恐怖感を呼び起こす。十数年来の暖冬で、雪国であることをすっかり忘れていた矢先の大雪は改めて多くの教訓を我々に与えた。雪に強いはずの北陸自動車道の通行止めや、迂回路としての8号線バイパスの渋滞等、初動の遅れを指摘されていたが、降雪時、圧雪状態に於けるスノータイヤ、スタッドレスタイヤ、そしてランドクルーザーの安全性の過信、チェーン着脱の経験不足、ドライブマナーの欠如にも大いに問題がある。しかしながら今回の数日間の渋滞の中で、ケイタイ電話の普及は、精神的苦痛を柔らげ、身内、知人、会社等への通話により大混乱が避けられ、最悪の事態を免れたことなど大きな役割を果たしたと言える。

この程、新大久保駅に於ける心温まる記事と共に、福井県内での1月中交通死亡事故0(ゼロ))のニュースが目に飛び込んできた。全国で福井県だけであり、豪雪を思うと正に快挙と言えよう。地域の長老から子や孫へと口伝えによる雪国の知恵と、ケイタイ電話との不思議なハーモニーが今回の豪雪からの貴重なメッセージである。この記事が掲載されるまでは是非続いて欲しいものである。

2年程前に購入したケイタイ電話の液晶画面に黒い縦縞が入るようになった。聞くところによればもう寿命だそうだ。勧められてiモードに入れ替え、試しにショートメールなるものを姪っこに送るとすぐに返信あり。「余計ナコトスルナ」。約6千万台とも言われるケイタイ電話の普及について、その寿命が2年程となると、使用済みのケイタイ電話の墓場が大いに気になるところである。便利さの追求と資源の循環、物の豊かさと心の豊かさのバランスの大切さを改めて考えさせられる新世紀の幕明けである。

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