全国町村会

潟僧(ガタゾウ)の町づくり〜ムツゴロウ王国芦刈〜

佐賀県芦刈町長 田中博昭

佐賀県のほぼ中央、小城郡の最南端、そして有明海の最奥部に当る六角川の河口に拓けた肥沃な大地、それが我が町“芦刈”です。

町の総面積は1,667ヘクタール、人口6,700人。町全体が有明海の落とし子とも言える古くからの干拓により造成された、山も無ければ丘もない、一面の低平地で、農用地が65%を占め、穀倉佐賀平野の一角を担う農業の町。そして、母なる海、有明海は珍魚ムツゴロウを始め、この海特有のユニークな魚介類の宝庫であり、又質量共に日本一を誇る「佐賀のり」「赤貝」の養殖で、佐賀有明漁連の中核として頑張っている漁業の町です。

話は変わりますが、私は生まれも育ちも芦刈です。村の小学校を終えると、中学校は佐賀市の県立佐賀中学校(旧制)へ進学しました。

昭和15年、12才の春、憧れの制服、制帽を身に着け、片道10キロ余の道程も苦にせず、自転車を走らせ、小さな胸躍らせて、さみどり鮮やかな柳のしだれが早春の風にゆらぐ校門をくぐった、あの日の感激……。60年前の記憶が懐かしく蘇って来ます。1年2組、教室での担任の田中頼逸先生との初対面で、“芦刈出身の田中です”と名乗ったら、即座に「オー、お前は潟僧(ガタゾウ)か?」と。

潟僧とは有明沿岸の農漁村育ちの田舎者と言う意味ですが、又潟泥育ちの粗野で喧嘩早い反面、負けん気や忍耐力、団結力の強さ等、その気質から都市部の人からは、一目置かれた存在でもありました。

ジッと見上げた私を見て、先生の次の言葉が「俺(オイ)も犬井道、お前と同じ潟僧タイ」「街(マチ)の者に負くんなよ」と、ゴツイ顔の目元には笑みを浮かべて励まして頂いた今は亡き恩師の姿が浮かびます。

新入生250人中、芦刈出身は2人だけ、しかも2人は組違いの為、2組には誰一人顔見知りは無く、少々気重で、緊張ぎみの私の心が、先生の言葉で一瞬ほぐれたのと、その後、級友に私の存在を早く覚えて貰えた様に思います。

その後も何かと目をかけて頂きましたが、何時しか、私は、潟僧なら潟僧らしくと言った開き直りの決断と意地が身についたのではと言う思いがあります。ともあれ、潟僧と有明海は切っても切れない絆で結ばれています。

即ち、干満の差、実に6mに達する潮の満ち引きで形成される広大な干潟に堤防を築き、開拓の鍬を振るい続けた先人の尊い血と汗がしみ込んだ大地、正に母なる海=有明海です。

一方、ユニークで豊かな海の幸、ムツゴロウ、ワラスボ、うみたけ、あげまき等、この海特産の魚介類は、村人の大切な生活の糧となり、暮しを支えた、文字通り宝の海であります。農業と漁業を基幹産業とする芦刈にとって、漁業の盛衰は懸って有明海の自然環境の保全とその利活用如何にあります。

然しこの母なる海、宝の海も時代の流れに伴い変化を余儀なくされて来ました。有明海の漁業は戦後導入された海苔養殖が昭和40年代に急速に成長し、50年代を迎えると、先進地を抜いて日本一の漁場の座を占めるに至りました。その先導となった佐賀県ですが、日本一の「うまい佐賀のり」の中核をなす芦刈です。

然しこの処、全国的な生産過剰と景気の低迷で価格が落ち込み、年によっては病害等で不安定な面を抱えております。

一方海苔の台頭と引き換えに在来の漁獲が低迷を続け、干潟の名物ムツゴロウの激減に海の異変を察知し、県の水産振興センターでは、その生態研究を進める中で画期的な人口ふ化に成功、当町地先で稚魚放流が実施されました。放流に立合って私は、更に一歩進めて芦刈海岸をムツゴロウの保護区にすべく提案し、1986年、保護区指定を受けて「佐賀ムツゴロウ王国、芦刈」を宣言、美味で、愛きょう者のこの珍魚の群れ遊ぶ楽園となし、又生産基地にしようと考えたのです。作戦成功!今では見事に蘇ったムツゴロウのユーモラスな自然の生態が間近に観察出来る新名所となり、内外より訪問者が急増しています。

21世紀は地方の時代!

情報化、交流の時代、そして大競争の時代と言われています。歴史、自然、立地条件等、地域の特性を見直し、掘り起こし、それを如何に活用し、どう伸ばしてゆくか?

類い稀なる有明海、広大な干潟、ユニークな魚介類、恵まれた豊かな自然を大切にし、それを活用して農業、漁業に生きて来た先人の営み、文化を、しっかりと承継し、更に現代の知恵と技術を加えて、更なる発展に繋げるべく、潟僧を自負する者が相集い、潟僧らしくお互いに支え合って汗を流す潟僧の町づくり集団が、その輪を拡げ乍ら、夫々の夢に向かってチャレンジ合戦を展開する「ムツゴロウ王国、芦刈」です。

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