全国町村会

風鈴

エッセイスト 山本 兼太郎 (第2520号・平成17年5月23日)

もうなくなってしまったと思っていた風鈴売りに出会った。住宅街のおだやかな昼下がりである。リヤカーに屋台のようなものを作り付けて、色とりどりの風鈴をぶら下げて、のんびりと通り過ぎて行った。

風鈴売りは、売り声を出さないで、静かに通り過ぎるのが普通である。陶磁器や金属、ガラス製などが、風に吹かれて、さわやかに聞えてくる。それだけで十分で、ことさらに売り声がなくても、夏の風情が伝ってくる。

物とが触れ合うことで音を発する。古代の中国では、そこに神秘的な力を感じとったらしい。時の皇帝が、何かを叩いて、好みの音を一つ決める。すると仕えている楽人が、皇帝が選んだ好みの音に似た音色を出す笛を選び出す。そのとき、選ばれた笛の長さを、ものを測る基準の物差しにしたというのである。高い音ならば、笛の長さが短かくなるし、低い音ならば、長くなる。ここで一尺なら一尺といった長さの基準が決まれば、面積や容積も決まり、そして税も決めることができる。

権力者が叩いた音が、単なる音ではなくて、度量衡の基準という社会の規範にまで及ぶという、驚くべき発想である。とはいっても、この基準が長い歳月のうちに、世の中の変化に合わなくなることも、あったに違いない。時には音の高い低いを加減して、笛の長さを変えたというから、政治的な音もあったことだろう。漢の時代までに、14回も変っているそうだ。

古代の中国人は、音によって、度量衡という社会の規範というべきも のを考え出したが、日本人は音によって涼を求めるといった風流を発見した。風鈴のことである。耐えがたいようなむし暑さを風と音で涼しさというイメージにかえて楽しませてくれる。日本人の素晴しい感性の一つである。

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