全国町村会

20歳と70歳

エッセイスト 山本 兼太郎 (第2407号・平成14年7月29日)

毎年、夏になると「敗戦の日」のころが思い出される。すると、必ず食料不足の話になる。戦争・敗戦は食べ物の記憶となって、人々の心のひだに染みついているらしい。

日本人の食生活が、全体として「よくなっている」とするのが、70歳以上では75%もあるというのに、20歳代ではわずか22%だという。最近の新聞社の調査である。

現在の70歳代といえば、日本が最も苦しかったころ、すなわち昭和20年の敗戦の年には、13歳から22歳である。育ち盛り、食べ盛りで、飢餓と隣り合わせの食の記憶は、生涯忘れられるものではなかろう。

当時、20歳をすぎた青年たちは、すでに戦場へ送られ、ここでは敵弾よりも飢えに苦しめられた。米軍は、そんな戦場に遺棄された日本兵の従軍手帳を重視した。軍事的に価値の高い記録があったからである。なかには、南海の孤島に生き残った7人の兵士が、正月を祝う食物として、13個の豆しかないというのもあったという。

戦場ばかりではなく、内地も食べ物の欠乏はひどかった。敗戦の前年の昭和19年4月に発行された雑誌に「食べられるものの色々」という記事が掲載されたが、その中の「虫の項」が話題になった。例えば、ゲンゴロウ虫の食べ方は「頭・足・羽をもぎ取り、腹だけをしょう油煎りにして煮つける」といったものだった。そして、国内も前線と同様虫けらどもを食って頑張ろうというわけである。

それでも平和は有り難い。いまでは世界一を誇る日本人の平均寿命が、初めて50歳を越えて、男50.06歳、女53.96歳となったのは、昭和22年である。そして、平和とめざましい経済成長のまっただなかの昭和27年生まれが20歳である。

日本人の食生活がよくなっているとする70歳代と、悪くなっていると思う20歳代の意識の距離を思わずにはいられない。そして、この20歳代が70歳代になったときの日本の姿を考えてみたりする。

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