全国町村会

過疎地

エッセイスト・画家 玉村 豊男 (第2481号・平成16年5月24日)

中山間地の過疎化が、急ピッチで進んでいる。

私が十数年前に、信州で、見晴らしのよい山の上で暮らそうと土地を探していたときにも、廃屋の並ぶ村を見たことがある。人里を離れて山をのぼって行った森の中にいくつかの人家の群れがあり、こんなところに人が住んでいるのか、と近づいてみると、すでに放置されて久しい家や畑が、荒れた状態でかつての村落の在り処を示していた。おそらく、開拓のために入植した人びとが、後継者がないまま姿を消したのだろう。

いま私が住んでいる地域も、かつては入植者の村であった。が、数代を経た現在は、近隣の都市に通う勤め人が世帯のおもな構成員になっており、農業の跡を継ごうとする者は数少ない。村に残った中年世代がなんとか地域の活気を保ってはいるものの、高齢者の割合はじわじわと増え続け、大きな古い家に老人がひとりだけで暮らしている家庭も珍しくなくなった。このままいけばいずれは過疎化の道をたどり、廃村とまではいかなくても、歯の抜けたような淋しい村になってしまうかもしれない。

かつては下のほうの集落に住んでいた一家から、次男や三男が田畑を求めて独立し、山間地に入植して新しい村を切り開いた。それが星霜を経て、後継の若者は生家を離れて都会に出たまま帰ろうとせず、山を下ることを拒む老人だけがそこに取残されていく。私たちの村だけではない、それは日本のいたるところで展開されている構図である。

こうした変遷は、ある 意 味では、明治以来の政治と行政が意図した、日本の近代化の筋道を示す変遷であるといえないこともない。農地の開拓と農産物の増産を奨励した時代から、工業化の推進と、その結果として都市に人口と経済力が集中する時代へ。それが、いま行き詰まって新たな問題を生んでいるのである。

農業と、地方の生活を復権させる方向に、再び舵を切り直すこと。過疎化を食い止め、地域を活性化するためにやらなければならないことは、明らかである。

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