全国町村会

小学校に農業科広がる兆し〜地方創生策にも

島根県立大学名誉教授 田嶋 義介(第2975号・平成28年10月3日)

「やわらかい土の中に、そっとまいた小さな種が青い芽をふき、それが日ましに大きくなって、やがて黄金色の実りに変わる。あの育てあげる喜び、あれさえわかったら、 少しぐらいの苦しみを受けたって、平気だって、きっとあなたも言うに違いないわ。」

これは私たち六年生が学習発表会で演じた劇、「米つくり」のせりふです。この劇は、縄文時代の終わり頃、米つくりが日本に伝わったばかりの時代の物語です。この劇を演じて、 私たちの祖先が代々、苦難を乗り越え、米つくりを続けてきたことを知り、とても感動しました。

ここまでは、福島県会津地方北部にあるラーメンで有名な喜多方市の市立上三宮小6年佐藤梨乃さんの「受け継がれている米の命」という題の作文の冒頭部分だ。 2014年度市小学校農業科作文コンクールで大賞を受けた。劇のせりふとはいえ、稲の小さな籾を土に蒔き、 それが稲に成長していく命の姿とそれを育てていく喜びをうたいあげる一節を見事に切り取っている。「小学校で農業を必修に」と提唱してきたJT生命誌研究館長の中村桂子さんは「内容だけでなく文章がとてもよくできています。 農業科は自分で体験し、自分で考えるので、心の中から自然に言葉が生まれてくるのでしょう」という。

中村さんは、最近の子どもたちが社会、自然とのつながりが薄いまま塾や習い事などに追い立てられ、 どこかにゆがみが生じていることに警鐘を鳴らし、「私たちが失った生き物としての時間の流れ」を農業で取り戻そうと呼びかけている。それに応えて、喜多方市は2006年から取り組み、 構造改革特区を活用、「市農業教育特区」として07年度から年45時間の授業を確保、全国初の教科「市小学校農業科」がスタートした。今は「総合的な学習」の中で、市内17の全小学校で実施されている。 農業地帯だけに、地域住民が「農業科支援員」として農業の手ほどきをしている。

これを山口県萩市教委が13年度に視察に訪れ、同じ年から農業の後継者育成策として、「萩・農下村塾事業」と明治維新の吉田松陰の松下村塾にちなんだ名称を付け、市内の全小・中学校で農業を学ぶ機会を設けている。 喜多方市と同様に、地域住民が協力し、作文もある。北海道士別市も15年度から小学3〜6年生に農業学習をさせている。喜多方市の南にある会津坂下町の坂下南小、坂下東小でも、5年生が農業体験をしている。

日本の国土の7割は中山間地域だ。ここでは、農林業が主体にならざるを得ない。小学校から、動物だけでなく植物の命の尊さを学ぶことが心身の健やかな成長に役立つばかりか、地方創生策ともいえよう。

 

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