全国町村会

島根、山口県に15年、町村印象深く

島根県立大学名誉教授 田嶋 義介(第2923号・平成27年6月22日)

島根県に10年、故郷の山口県に5年暮らし、東京圏に今春戻った。15年間に沢山の自治体に接したが、町村の人々が印象深かった。

市町村合併論議が盛んだった2003年。明治期の市制町村制以来人口約2千人ながら独立してきた島根県西部の柿木村が合併に追い込まれ、 最後の村長となった三浦秀史氏に話を聞いた。「国土の7割を占める中山間地域を守っているのは人口1万人以下の小規模町村だ。ここへの地方交付税は年3兆円。 これがいかに安上がりかを国はなぜ考えてくれないのだろうか」と涙をハラハラと流した。1970年代から有機農業に力を入れ、山口、広島県に売り込み、自立を図ってきただけに悔し涙があふれた。

村のインテリである寺の住職は「中山間地域は農業と林業でやってきた。それが60年代の木材自由化で林業はやっていけなくなった。農業だけでは無理なのだ」。 自由貿易で日本経済が回っているなら、その果実は中山間地域に振り向けるべきだ、との思いを強くした。

「耕すシェフ」のキャッチコピーで食と農の連携をめざす島根県の邑南町は旧石見町時代の93年から2013年まで若い女性を「園芸福祉研修生」として全国から公募、月13万円を支給した。 働く姿だけでも町に活気を与えていた。21年間に102人を採用、34人が町に定住し、結婚、29人の子供が生まれた。地方創生の先駆例だった。

反原発で知られる祝島(山口県上関町)に、帯広畜産大で学び北海道の大肉牛牧場牧場長から07年に戻り、豚の放牧経営をしている氏本長一さん(65)は毎朝、残飯を集めて回る。 放牧豚の肉質は東京でも評判だが、島内の残飯で飼育ができるように頭数は増やさない。「原発に反対するだけでなく、離島でも小規模、 循環型の外部環境に負担をかけない自立した農業ができることを示したい」と意気込む。

各種施策で「見える化」が求められているが、町村では住民の動きが見える。「民主主義の単位は小さいほどいい」のもそのせいだろう。

 

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