全国町村会

地域小にして成り立つ民主政

東京大学名誉教授  大森 彌(第3021号・平成29年11月13日)

後期高齢者の仲間入りの歳になり「終活」の一環として書物・資料の整理をしていると、「お宝」を発見することがある。松尾尊~編『石橋湛山評論集』(1984年、岩波文庫)はその一つである。湛山は、この中で「地域小なる地方自治体」の価値を論じている。

石橋湛山は、1884年東京生まれで、大正デモクラシー期から昭和戦前期にかけて「大日本主義」に対し「小日本主義」を唱え、満州放棄・軍国主義反対の気骨の言論人として活躍した。戦後、蔵相、通産相を歴任し1956年12月に内閣総理大臣となったが病を得て僅か65日で辞職。1973(昭和48)年に89歳で亡くなった。

湛山は「東洋経済新報」大正14年6月6日・20日・7月4日号の「社説」で「市町村に地租営業税を移譲すべし」と論じた。想起されるのは全国町村会の前進である全国町村長会が国税であった地租と営業税(両税)の移譲を求める運動を展開したことである。

「社説」に次のようにある。「私の見る所によれば、地方自治体にとって肝要なる点は、その一体を成す地域の比較的小なるにある。地域小にして、住民がその政治の善悪に利害を感ずること緊密に、従ってまたそこに住まっている者ならば、誰でも直ちにその政治の可否を判断することが出来、同時にこれに関与し得る機会が多いから、地方自治体の政治は、真に住民自身が、自身のために、自身で行う政治たるを得る。・・・しかるに国の中央政治の如き、大なる地域にわたる政治においては、多数の国民が親しく政治に関与する機会はすこぶる乏しく、数年に一回来る選挙の揚合のほかは、ただ新聞を通じて、遠くからこれを見物するに過ぎざる (而してまた見物しているよりほかなき) 有様である。」

湛山は、地方自治体は、その小なれば小なるほどその目的―国民の公共心と聡明とを増進する―を達し得る、としているが、「小なれば小なるほど」の箇所に「ただしその相当独立した仕事の出来る限りにおいて」と注記している。ともあれ、市町村は小地域の仕事を行っているがゆえに住民の誰でも、直ちに興味をもち、理解し、関与し得るとした湛山の見識を、全国の町村における現状の点検と改善に役立て、地域小なる自治体の存在意義を高めたいと思う。

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