全国町村会

絶対悪

東京大学名誉教授  大森 彌(第2852号・平成25年9月2日)

広島へ原爆投下から68年を迎えた2013年8月6日、広島の平和記念公園で平和記念式典が行われた。この一年原爆症で死亡した5859人の名簿が原爆死没者慰霊碑に納められた。 一発の原爆はおびただしい死をもたらし続けている。 

被爆二世の松井一實・広島市長は、6日の平和宣言の中で「無差別に罪もない多くの市民の命を奪い、人々の人生をも一変させ、また、終生にわたり心身を苛さいなみ続ける原爆は、 非人道兵器の極みであり、『絶対悪』です。原爆の地獄を知る被爆者は、その『絶対悪』に挑んできています」と言い切り、「世界の為政者の皆さん、いつまで、疑心暗鬼に陥っているのですか。 威嚇によって国の安全を守り続けることができると思っているのですか」と訴えた。この2013年の平和宣言は被爆体験とともに語り継がれよう。一自治体に過ぎない広島市の市長が、 世界に向かって核兵器廃絶を説く外交の機能を見事に果たしている。 

平和式典には福島県浪江町の馬場有町長が昨年に続いて出席していた。町長は、2013年3月の「福島県浪江町のストリートビューの公開によせて」の中で、「浪江町は震災から時が止まったまま、 原子力災害のため2年が経過しても応急的な処置しかできません」としつつ、「福島の原発事故を知らない世代へも、その姿と、営々と築き上げてきた歴史と文化を伝えていくことが、 我々の世代に課せられた責任だと思います」と述べている。町長は、2011年9月、東北電力が建設を計画している「浪江・小高原子力発電所」について、「福島第一原発事故で安全神話が崩れた。 原発の新設については世論上、難しい」と反対の意向を表明した。浪江町は、原発事故前まで計画推進の立場をとっていた。同じ「核」でも、核兵器は「絶対悪」であるが、 原発は「核の平和利用」として許容し続けるのか。福島原発事故の被災者にとっては、その是非こそが真の争点ではないか。 

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