全国町村会

「原災」市町村の住民減少を食い止めたい

東京大学名誉教授  大森 彌(第2762号・平成23年6月6日) 

市町村の区域内に住所を有する者は当該市町村の住民とされている。市町村は、その住民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならず、そのために住民基本台帳を管理している。住民たる地位は住民基本台帳への登載が決め手である。住民たる地位で大切なのは、代表機関である首長と議員の選挙権を持ち、法人としての当該町村に納税する義務を負っていることである。ある市町村から別の市町村に転居すれば、転出入届けを出さなければならないことになっている。

普段なら何でもないこの住民基本台帳の管理に悩ましい問題が起こっている。それは、東日本大震災に伴い東京電力福島第一原子力発電所の事故(原災)により、そこから半径20km以内の富岡町、双葉町、大熊町の全域、浪江町、川内村、楢葉町、葛尾村、田村市、南相馬市の一部が「警戒区域」(立入り禁止)に、葛尾村と浪江町の20km圏内を除く全域と飯舘村全域、川俣町と南相馬市の一部が「計画的避難区域」(概ね1ヶ月を目途に別の場所に計画的に避難)に、楢葉町と川内村の20km圏内を除く全域、広野町の全域、田村市と南相馬市の一部が「緊急時避難準備区域」(常に緊急的に屋内退避や自力での避難ができるようにする)に、それぞれ指定されたからである。特に役場機能とともに区域外に避難した住民は、相当の期間、これまでの住みかに戻れない可能性が高い。

もし、すべての住民が避難先に住民票を移せば、その市町村の税収はほぼ完全に失われる。住民が住民基本台帳上の登録を残すということは、当該自治体に納税する意思を持ち続けるということである。2000年9月から4年5か月全島避難した東京都三宅村の住民の前例もある。

このたびの転居は思いも寄らない故郷からの追い立てであって住民に責任はない。だから、転入届けを強要すべきではない。他区域へ避難を余儀なくされた住民が、故郷の自治体を守る手段は住民票を移さないぞ、とひそかに決心をすることである。避難先の自治体に負担をかけることになるが、必要があれば事務委託等の特別措置をとってほしい。

客観的に居住している事実が1年間継続していれば、本人の主観的な希望に関係なく転入届けを職権で記載できることを知りつつも、なんとか「原災」の市町村の住民減少を食い止めたい。 

 

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