全国町村会

復権「スモール・イズ・ビューティフル」

東京大学名誉教授  大森 彌 (第2648号・平成20年8月4日)

徳島県上勝町長の笠松和市さんが佐藤由美さんと共著で『持続可能なまちは小さく、美しい』を刊行した。この書名は、1970年代に日本でも話題になったシューマッハの『スモール イズ ビューティフル―人間中心の経済学』を想起させる。そのシューマッハは、オーストリア出身の政治思想家のレオポルド・コールの弟子であった。

コールは『居酒屋の経済学』で知られているが、彼は、「あらゆる社会的な災いの背後にはただひとつの言葉が見える。巨大さだ。」と喝破し、モノが大き過ぎることが問題だとした。小さな組織や小さな都市、そして小さい国家が、巨大なそれよりもいかに効率的で、愛に満ち、創造的で安定しているか論じ、身の丈の規模の大切さを説いた。小さいことがいいことで、美しいというのだ。

ひるがえって、平成の日本では、「小さいことは迷惑だ」といわんばかりの市町村合併が推進され、規模拡大による効率化が追求されている。その結果、人口と面積が著しく乖離する市や町が生れた。10町村の合併で人口約8万人の栗原市が誕生したが、その面積は約800平方キロにまで広がり、そこを震度六強の地震が襲った。孤立した集落の情報が届かないなどの弊害をマスコミは「『大合併』被災地に影」と報じた。

規模の合理化を促し「昭和大合併」をいざなった、1950年12月の「神戸勧告」でさえ、「人口と面積との関係について充分配慮すること。人口密度の高い地方を除いては、あまりに広大な面積の農村を設置することは、かえって住民の役場への距離を遠くし、また、教育施設等について能率的な経営を困難とする事情もあることを考慮する必要がある。」と指摘していた。

「構造改革」の一環として推進された平成の合併には、こうした配慮に欠けている。笠松町長が強調しているように、構想力・人間力・環境力・自然力・再生力を持つ地域は小さくとも持続可能である。国は、今こそ、小さく、美しい町村を守る政策に転換してほしい。

小さいがゆえに苦境に立つ町村を迷惑視する国は醜くくはないか。

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