全国町村会

補完性の原理を誤用するな

東京大学名誉教授  大森 彌 (第2616号・平成19年10月1日)

いまだ「平成の大合併」は続行中であるが、総務省の資料に基づき、平成11年3月31日と平成20年1月1日を比較すると、市の数は670から782へ増え、町村の数は2,562から1,017へ激減した。目立つのは全国比で市の人口が76.8%から88.8%へ増え、面積が28.3%から56.3%へ拡大した一方で、町村の人口が23.2%から半減し、面積が71.7%から43.7%へ激減したことである。すでに国土の半分余のところに九割近い人びとが住んでいる。しかも、政令市・中核市・特例市は合計で九六を数え、9.4%の面積に43.5%の人びとが住んでいる。

これで見る限り、市町村合併は人為的に都市化を推し進めたことになる。もちろん合併で市になったところでも農山村地域を含んであるから、すべてが都市部になったわけではない。しかし、町村がなくなり、市へ再編されれば都市化の流れ(市街地化)は止めようもない。問題は、まだ、国土の4割余の農山村に約11%の人びとが暮らしていることをどう考えるかである。非効率だから、さらに町村を解消し市へ編成すべきだというのであろうか。

市町村合併の目的は「広域行政の要請」に応えるためのものであったのに、小規模で非効率だから「消えてもらいましょう」という財政効率論へ暗転してしまっている。いまや市に住む人口は圧倒的多数である。町村は数では太刀打ちできない。もし数の論理で政治の決定がなされるとすれば、町村はもとより、人口20万以下の686市の多くも存在しえなくなるだろう。

分権化の受け皿整備が全国一律に一定人口規模の基礎自治体(市)に切りそろえることであるならば、そのような分権化が果たして望ましいであろうか。基礎自治体を人口規模で再編することは補完性の原理の誤用である。補完性の原理は、基礎自治体により多くの仕事を押し付け、それがいやなら合併して大きくなれとか、小さくて仕事が大変なら他にやらせるから、やらなくてもいい、というような考え方ではないはずである。第29次地制調は「市町村合併を含む基礎自治体のあり方」を取り上げるが、その論議のゆくえを注視しなければならない理由である。

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