全国町村会

身近さの含意

千葉大学教授・東京大学名誉教授 大森 彌 (第2356号・平成13年5月21日)

市町村をどう捉えるかは、地方自治論の基礎である。私は、早くから、市町村は、末端ではなく先端の自治機関であり、正体不明の地方団体ではなく「最初の政府」であると捉え、その重要性を強調してきた。「最初の政府」とは、どこよりも市町村こそが、住民にとって最も接近しやすく自分たちの声を反映しやすい自治の単位であることを意味している。そして、その特色のひとつは身近さ(クロースネス)にある。

身近さとは、たんに地理的に近くにあるということだけでなく、関係において近いことである。近くにある町村の役場が、住民にとって遠いと思われていることは十分ありうる。それは、この場合の身近さの本質が、役場のコミュニケーションの力にあるからである。

役場が住民に対して、何を、いつ、どのように伝えようとするか、その意図することが住民に理解でき、納得できなければならない。それには、それにふさわしい態度と技術がいる。住民が役場を身近な存在だと感じるのは、役場が、物事を真摯に考え、できる限り、自己決定を促すような(「どう思いますか」、「どうしたいですか」)言葉でわかりやすく語りかけ、そのことを通じて、役場が、安心と励ましの支えとなってくれるのだと思えるときではないだろうか。

もし、役場が、役場の都合と論理を優先し、「こうしろ」、「こうするな」と指示命令系の言葉を多用し、住民との対話をできるだけ断ち切ろうとするような態度に出るならば、役場は遠く、自分たちの味方とは思えないだろう。住民は、そのような役場と協力して地域をよくするために身銭を切ってもよいと思うだろうか。住民が地域づくりに身銭を切ってもよいと思えるのは、役場が真に身近な場合に限られるのではないだろうか。

役場が、どんな言葉で、住民に語りかけ、その理解と共感を生み出せるのか、それへの絶えざる反省と工夫こそ、役場が身近であり続ける基礎である。

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