全国町村会

放射能に負けない農の力

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章 (第2794号・平成24年03月26日) 

東日本大震災と原発事故が起きて一年が過ぎた。政府の発表とは裏腹に、原発事故に収束の兆しは見られない。除染の効果も上がらず、空間放射線量はなかなか下がらない。そうしたなかで唯一といってもよい希望は、農産物への放射性物質の移行が想定より大幅に低かったことだ。   

たとえば福島県が二月に発表した県内の米農家に対する放射性セシウム緊急調査の結果(対象約二万三〇〇〇戸)では、八六・二%が不検出だった。四月から適用予定の新基準値一〇〇ベクレルを超えたのは、二・三%にすぎない。去年春に国は、土壌から玄米への放射性物質の移行係数を〇・一と発表したが、実際には例外的条件(地形や水)の田んぼを除いて、移行はその一〇分の一程度だった。また、国の検査結果を見ても、ほとんどの野菜はすべてが検出限界未満である。   

これは、長年にわたって農業者が耕してきた結果として、土が放射能をいわば封じ込めたからだ。チェルノブイリ原発周辺の粗放的な農業との違いとも考えられるだろう。有機物やカリ肥料を多く投入すると、土が放射性セシウムを吸着・固定する量が増えるから、作物への移行が抑えられる。また、セシウムはカリウムと似た性質があり、作物はカリウムを好んで吸収する。さらに、深く耕せば表面のセシウムが大量の土と混ざって地表の放射線量は低下する。   

福島県の阿武隈山系のお年寄りたちは、昨年春も例年通りに種を播き、耕して、収穫した。農の営みを中断させなかったが故に、前述したような成果が得られたのだ。それらはほぼすべて、小規模の自給的農家や兼業農家の営みである。本当に強い農業とは、季節のめぐりのなかで自然とうまく付き合う知恵をもった農業であることが、はからずも明らかになったわけだ。   

だが、こうした事実はあまり報道されないので、いまも多くの国民は福島県の米や野菜は危険だと思っている。だから、売れない。メディアは、放射能に対峙してきた農業者の思いを伝えていく必要がある。

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