全国町村会

遠野物語ファンタジー

法政大学教授 岡崎 昌之(第2840号・平成25年5月20日)

厳寒の2月下旬、永く気になっていた「遠野物語ファンタジー」を観る機会を得た。凍てつく道を市民センターへ辿り着くと、最終公演を控えたロビーは熱気にあふれていた。 大ホールの舞台の前には立派なオーケストラピットが設置され、地元中高生、大人からなる大編成の楽団が陣取り、音合わせをしている。傍らでは子供から大人までの合唱団が揃い、 準備に余念がない。

いよいよ開幕、第38回遠野物語ファンタジー「高清水・妖かし物語.ぼんず」の幕が上がった。凶作でやむなく山に捨てられ、妖怪たちに育てられた赤ん坊(ぼんず・坊主) を取り巻く人間と妖怪の心温まる舞台で、市内松崎町高清水に伝わる民話を主題にしたものだ。遠野小1年生で可愛い童を演じる最年少キャスト、遠野馬の里の職員は河童、 知り合いの市職員は合唱団で歌っている。郷土芸能の八幡神楽やバレエもそれぞれ一場面を飾る。

昭和51年から休むことなく続いてきたこのファンタジーは、市民センターの建設と関係する。昭和46年に建設された遠野市民センターは、中央公民館、市民会館、体育館、 高齢者施設等の複合施設。当初から市長と教育委員会の共同の組織として、広報、地域活動、市民生活、社会教育、地区センター等を管轄し、職員は市長と教育委員会の 両部局併任としている。いま全国的課題となっている首長部局と教育委員会との関係について、遠野市では果敢な取り組みを40年前から始めていた。

こうした経緯を背景に、市民センター大ホールでの文化事業を、プロ劇団の興業に任せるのでなく、青年演劇活動を基盤に、地元住民が担う自主事業としてファンタジーは 始まった。遠野市に伝わる民話や歴史を題材とし、脚本、演出、音楽、キャスト、大道具、衣装等、すべてが住民と市職員によって担われるという基本姿勢は当初から変わって いない。今年のキャスト・スタッフは総勢345人、舞台を見た人は2千人、大まかだが100人に一人が舞台に関わり、10人に一人が舞台を見に行く。大震災時、住民と行政が一体と なって津波被害の沿岸部を支えた後方支援拠点としての遠野市は高く評価された。その背景はこうした文化活動にもある。

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