全国町村会

蔵の記憶

福井県立大学教授 岡崎 昌之 (第2328号・平成12年9月11日)

大多数の町村でもそうであるが、全国の地方都市で中心市街地の空洞化が大きな問題となっている。「中心市街地活性化にはつける薬がない」と言い切る人までいる。多くの商店は、お客を郊外の大型店に取られ、シャッターを閉めたり、取り壊して駐車場になったりしている。町の中心であった商店街も、人通りはなく、閑散としている。居住する人も少なく、人口面で見れば、日本で最も過疎化が進んでいる地域といえる。

郊外に便利で楽しい大型店があれば、それで事足りる。車利用が前提となった今日の生活スタイルでは、狭隘な中心部には行きづらい。役場や市役所など、公共施設も郊外に出てしまった。様々な情勢は中心市街地に不利となっている。

こんな不利な情勢の中で、福井県武生市の中心部では、ユニークな再生の方向が見えてきた。紫式部ゆかりの古都ではあるが、周辺部の東西に郊外型大型店が立地し、ご多分に漏れず中心部は空洞化が激しい。そんな中心部の一角、蓬莱地区はちょうどロの字の街路に囲まれた商店街で、各商店の裏には古い蔵が残されていた。道路に面した表通りは、時代の流れに沿って様々に変化してきた。看板やアーケードに隠れて、昔からの武生の面影は薄い。しかしロの字の中心に立ってみると、周りは蔵で囲まれ、なかなか落ち着いた、旧来の武生らしい雰囲気があることに町の人々は気づいた。

早速、街なみ環境整備事業を導入し、地区再生事業推進協議会も立ち上げた。関係者の思い入れも熱く、熱心な取り組みとなった。古く威厳のある蔵を、現代風に改造して、中華料理店が開業した。若いシェフがモダンなフランス料理店も始めた。気のきいたガーデニングの店もオープンした。お客もこの一角に戻り始めている。

これらの蔵は武生の人々の記憶の中に沈潜していた、街への思い入れを呼び覚ましたに違いない。自分はどの地域に生まれ育まれたのか。その記憶を中心市街地は育んできた。

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