全国町村会

地方創生の足し算と掛け算

明治大学教授 小田切 徳美(第3004号・平成29年6月26日)小田切 徳美

地方創生への関心が変化している。筆者への相談も「地域運営組織を作りたいが、何から始めればよいのか」とか「ワークショップをどう仕組んだらいいのか」という内容のものが多くなっている。数年前には「地方版総合戦略の目玉を何にしたらよいか」、「どうしたら交付金が取れるのか」という乱暴なものも少なくなかったが、今は明らかに違う雰囲気が生まれている。

こうした時だからこそ、改めて紹介したいのが、13年前の中越地震の復興支援に実践的にかかわった人々が明らかにした、地域再生の「足し算と掛け算」という議論である。これは、「農山村再生には2つの段階があり、両者は別物だ」という考え方である。

前段階が「足し算」と表現される。特にコツコツとした積み重ねを重視するものであり、あたかも足し算のような作業だからである。具体的には、住民の愚痴、悩み、小さな希望を丁寧に聞き、「それでもこの地域で頑張りたい」という思いを掘り起こすようなプロセスを指している。ここには華々しい成果もスピード感のある展開もない。中越地方における経験からは、被災後の数ヶ月から数年はこのタイプの支援が必要だったと言われている。

他方で、後段階の「掛け算」は、具体的な事業導入を伴うもので、短期間で形になるものである。その支援の中心は地域再生マネージャー等の専門家であり、それによりあたかも掛け算の繰り返しのように、大きな変化をもたらす可能性がある。そして、重要なのは、この掛け算は十分な足し算の後に、はじめて実施するべきものであるということだ。

いま、改めてこれを紹介したのは、交付金獲得競争の喧噪から脱して、少し落ち着いた現在の環境は、それぞれの地域で「足し算」から始める絶好のタイミングだからである。しかし、このグループをリードする稲垣文彦氏(中越防災安全推進機構)は言う。

「地方創生の本質は自治の再生だ。そのため、『足し算と掛け算』の実践は役に立つだろう。けれども、これは成功事例を示すものではなく、道しるべに過ぎない。模倣する時代は過ぎ去り、自治体が現場実践の模索から独自の地域再生モデルを創出していく時代が到来している。私たちの『足し算と掛け算』の経験はそのように利用して欲しい」

この言葉をかみしめたい。

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