全国町村会

あきらめない農山村

明治大学教授 小田切 徳美(第2919号・平成27年5月18日)

公立の小中学校の統廃合が加速化されつつある。市町村合併から約10年を経た農山村に再び生まれた「合併騒動」である。そのため、各地から強い反対の声も聞こえてくる。しかし、 筆者がむしろ気になるのは、このプロセスのなかで反対の声さえもあげられない地域の存在である。

先日も、西日本のある市の一女性住民から、筆者の研究室に速達が届いた。地域の中学校をめぐる市の統廃合計画の発表にもかかわらず、多くの住民、 特に「要職にある男性」が諦め、「もう決まっているからいまさら」という雰囲気が地域を覆っている状況が便箋数枚にしたためられていた。行間にあふれていたのは、この女性の地域への深い愛情、 それと裏腹な強い孤立感と疎外感であった。

住民は明らかに追い詰められている。そうした状況を作り出さないのが、基礎自治体のもっとも基本的な役割であろう。しかし、特に、市町村合併により自治体の周辺部となった地域では、 元の役場である総合支所の人員が毎年のように縮小し、さらに支所には政策的な決裁権が少ないという状況の中で、行政のかたちこそが住民の諦めを加速化している可能性さえもある。

そのような所で必要なのは、外の者の地域への関心を紹介し、その地域は孤立していないことをしっかりと住民に伝えていくことであろう。集落に入り込み、住民に寄り添うタイプの支援であり いくつかの地域では、集落支援員、地域おこし協力隊、NPOや大学などの活躍が既に見られる。

それは、乱暴な人口推計で「消滅」をレッテル貼りすることと、正反対の対応である。そのようなショック療法こそが地域の立ち上がりを導くと思う者がいるとすれば、大きな誤解である。 ショックは、住民に深い諦観を生むことも少なくないからである。

「地方創生が目指すのは、地域に住む人々が、自らの地域の未来に希望を持ち、個性豊かで潤いのある生活を送ることができる地域社会を形成すること」(まち・ひと・しごと創生長期ビジョン)。 その通りであろう。しかし、「自らの地域の未来」を諦め始めた地域があるとすれば、「地方創生」の基盤自体が揺らいでいることを意味している。

そのため、地域に寄り添い、諦めを拡げないという基礎的プロセスこそ重要であろう。そのうえで、諦観の代わりに希望を持ち、将来の生き様を行政とともに住民が考え抜く。 これこそが本来の「地方版・総合戦略」に他ならない。

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