全国町村会

「田園回帰」の意味

明治大学教授 小田切 徳美(第2884号・平成26年6月30日)

一部の過疎地域で、都市からの移住・定住の動きが活発化している。それは、特に中国山地で顕著である。過疎化現象が全国に先駆けてこの地域で顕在化したのは、 1960年代中頃であり、ちょうど半世紀を経て、同じ場所から逆転が始まったのである。そのため、いささか大時代的な表現であろうが、 これをあえて「田園回帰」と呼んでおこう。

その内実を、島根県邑南町で見ると、ここでも2013年度における人口(日本人)の社会動態は20人の増加に転換していた。 旧3町による合併直後の2005年度の85人減から徐々に改善し、今に至っており、ここ1〜2年間の変化がめざましい。その背景には、 2010年から始まる「日本一の子育て村構想」がある。「地域で子育て」をスローガンとする、行政と住民による多面的な取り組みが若い女性の心に響き、 彼女らの移住を支えている。

実は、中国山地の人口基調の変化には、多かれ少なかれ、若い世代、特に女性が係わっている。昨今の動きは、量的な活発化のみならず、 質的な変化が見られるのである。

このような現実がある一方で、過疎地域や農山漁村をめぐり、「市町村消滅論」が世間を騒がせている。 日本創成会議が2040年の地方部における若い女性人口の激しい減少を予測し、その一部を「消滅可能性市町村」としたことは周知の通りである。 残念なことに先の邑南町もそれに含まれている。

しかし、ここで気づくことは、日本創成会議が、地方で大幅に減少すると予想した若い女性にこそ、動きがあることである。 彼女らが「田園回帰」のひとつの主役であった。つまり、試算では2010年までの動きをベースとし、それ以降本格化するこの動きが織り込まれていない。 その点でこの推計には修正が迫られている。

このことは同時に、邑南町で見られるように、行政が自らの地域を磨くための明確な方向性を示し、住民を含めた実践が積み重ねられれば、 試算が示すトレンドは十分に変えられることを示唆している。

このように考えると、「田園回帰」は単に人の流れの反転以上の意味があることがわかる。「市町村消滅」を論じるような乱暴な試算とその方向性を「時代の流れ」と諦めて受け入れるのか、 そうではなく、知恵と努力により若者の「田園回帰」を実現し、未来を変えるのか、という地域の選択である。そして、それは、日本社会の選択でもある。

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