全国町村会

ふたつの「誤用」

明治大学教授 小田切 徳美(第2841号・平成25年5月27日)

成長戦略をめぐる議論が経済財政諮問会議と産業競争力会議の2つの場で進んでいる。アベノミクスの3本目の矢の全体像が明らかになろうとしている。

しかし、いずれの会議にも、気になる議論やキーワードが見られる。

ひとつは「コンパクトシティ」である。諮問会議では、民間議員が地域活性化の基本的考え方のひとつとして、コンパクトシティ作りを提案しており、 6月の「骨太方針」にもこうしたことが書き込まれることが予想される。

しかし、欧州で生まれた、このコンパクトシティ論は、それが我が国では誤用されやすいことが、本欄の執筆者でもある松本克夫氏により鋭く指摘されている (「コンパクトシティの誤用」『市政』2007年12月号)。氏は次のように論じる。都市計画によって、都市部と農村部がくっきり区分されている欧州では、 コンパクトシティは都市内部のつくり方として議論されている。それに対して、都市が無秩序に拡散した日本では、都市と連担する農村や山村の奥深くまでを コンパクト化の対象とする概念として誤用されやすい。事実、諮問会議の中では、地方都市と近隣の町村の連携の仕組みである定住自立圏が取り上げられ、 「コンパクトシティという発想と、この定住自立圏構想をさらに融合していくような取組が地域でできると活性化につながるのではないか」と語られている。それは、 欧州のオリジナルなものとはまったく異なる用法であり、その限りでは誤用であろう。

同様に心配な言葉は、「地域資源」である。この用語は地域に固有の資源を表し、生態系から農地・水路までを対象に幅広く使われている。そして、その特徴は、 「非移転性」(地域から動かせないこと)にあり、このため地域の人びとによる資源を保全する営みが重要であることが従来から指摘されている。しかし、 産業競争力会議で企業家の委員から出された議論では、「例えば食品、工芸品、生活スタイルその他様々なものが、外国人の視点からは非常に価値が高い資源であると 評価されることがある」と、むしろ「ブランド」に近い用語として使われている。

この両者の「誤用」に共通しているのは、地域に住み、働き、そして資源を保全する人びとの姿が、議論の中にまったく欠落している点である。その点で、この誤用は、 むしろ意図的なものである可能性がある。議論の行く末を注視する必要があろう。

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