全国町村会

TPPと道州制

明治大学教授 小田切 徳美(第2829号・平成25年2月11日)

安倍新政権は経済成長路線を標榜し、スタートした。そうした中で、焦点となっているのが日本のTPP交渉への参加であり、また最近になって動き出したのが道州制を めぐる議論である。

この両者には実は共通点が多い。第1に、2つの課題ともその内容が明らかでないまま議論が進んでいる。地方制度調査会会長も務める西尾勝氏は、道州制をめぐり 「中身の分からないものに賛成も反対もない」(『ガバナンス』2013年1月号)と正しく指摘されているが、同じようにTPPに関する情報も著しく不足している。

第2に、それにもかかわらず、財界が推進の立場を鮮明にしていることである。財界は明らかに両者のプロモーターである。本来は国の形、地方自治のあり方にかかわる 道州制が経済成長のための手段として扱われている。その場合、注意すべきことは、政権が経済成長を重視するが故に、財界が「そのためにはTPPと道州制が切り札だ」と 迫れば、予想を超えるスピードでこの2つの課題が実現される可能性があることである。

そして、第3に、最も気がかりなことであるが、進みつつある議論のなかで「改革勢力対抵抗勢力」という図式づくりが両者にみられることである。その「抵抗勢力」は、 TPPではいうまでもなく農業であり、道州制では他ならぬ町村である。

民主党政権の某外務大臣は、TPPをめぐり「GDPの1.5%の農業を守るために、98.5%が犠牲になっている」としたが、これはこの図式を意図的に作ろうとした 発言であろう。そして、道州制に関しては、新政権が誕生した頃から「道州制に反対する町村」という報道が頻繁におこなわれている。しかしそれに反対しているのは 町村ばかりではない。その延長上に、「人口では9%にすぎない町村のために道州制が実現せず、91%が犠牲になっている」というキャンペーンが登場する可能性があると 考えるのは杞憂であろうか。

最近では良く知られているように、TPPは農業のみの問題ではない。医療・保険や知的所有権さえも、国際基準の障壁として交渉の対象となる。道州制も、当然のこと ながら、町村だけの問題ではない。

道州制を成長政策の切り札として、それに反対する町村を「抵抗勢力」だとする狭い議論に終始するのか。そうではなく、道州制は国の形の議論であると同時に地方自治の あり方に直結する議論であり、国民・住民一人ひとりにかかわる問題として捉え、広範な議論の場を形成できるのか。町村と同時に国民が問われている。

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