全国町村会

分化する農村

明治大学教授 小田切 徳美(第2804号・平成24年6月25日)

筆者は、昨年春から約1年間、英国に滞在していた。今は、日本に戻り、大学の研究室でこのコラムを書いている。 そこがあまりにも殺風景なので、自ずと目に浮かんでくるのが、絵画のように美しい英国の田園風景である。同時に、 英国人研究者から、何百回と言われた「それは面白い」といううなずきの言葉も聞こえてくる。

英国で滞在したのはニューカッスル大学農村経済センターである。英国のみならず、欧州における農村研究の拠点と言われ、 大学院生を含めて約60名の研究者が実に多彩な研究を行っていた。しかし、彼らの基本的な農村観は一貫し、それは「分化する農村」 という言葉で表現されている。英国の農村では農業の経済的地位の低下に加え、1970年代より続く都市住民の環境志向・景観志向に 基づく農村移住が見られる。そのため、農業一色ではない農村経済は多様な姿に結実していた。農村は地域ごとに分化しているのである。

そして、この認識は、次のような研究者の研究態度につながっていた。「農村は分化している。それぞれの違いを知ることが、 自らが関わる農村の本質を知ることになる。いろいろな農村の違いを丁寧に知ることから始めよう」。だから、彼らは異質な日本の 農村の現実を積極的に筆者から吸収しようとしていた。小さな集落レベルでの地域づくりの活動、農産物直売所の販売システム、 中山間直接支払い制度の仕組み等の説明に、「それは面白い」を連発していたのである。

こうした彼らの対応は、いまも日本の地域研究の一部に見られる英国=先進として、制度や取り組みを丸写して日本に紹介する 研究を批判しているように、私には感じられた。農村は分化し、そこには先進も後進もない。実際に、滞在中の農村訪問で感じた ことは、地域の人々の知恵と熱意に溢れた英国農村の実践は、日本となんら差がないということである。それぞれの挑戦が、 それぞれのムラで、地域で、国で、様々に花開いている。

研究室で目を閉じると聞こえてくる英国人のあのうなずきは、外国から学んだと同じ分だけ、日本の農山村の挑戦を外国に 伝えることが必要であることを私達に教え、そしてそれを促している。

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