全国町村会

災害資本主義

明治大学教授 小田切 徳美(第2767号・平成23年7月18日)

多くの犠牲者を出し、未だに復旧の目処が立たない地域を残す東日本大震災と原発事故は、英語では「ディザスター」(災害・惨事)という言葉で表現されている。

筆者は現在、英国北部の小さな町に滞在しているが、この言葉を当地の人々からしばしば聞く。もちろん、日本の被災者と被災地を心配する問いかけの中においてである。今回の事態は3月11日当日から、海外でも驚くほど詳細に報道されている。そのため、この町の人々の日本へのまなざしは、「この悲しみを乗り越えて」という温かさに溢れている。

しかし、実は、筆者はこの言葉に接する度に、別の象徴的な用語を連想してしまっている。「ディザスター・キャピタリズム」(災害資本主義)である。これは、数年前に出版され、日本国内でも話題となっていた書籍、ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン―災害資本主義の台頭―』で使われた言葉である。この本は、自然災害やクーデター、戦争等による惨事により人々が放心状態になってしまった時、資本主義は今までおよそ不可能と思われた過激な市場主義的な改革を実現しながら「再生」することを明らかにし、欧米圏ではベストセラーとなっている。

日本から聞こえてくる、「これを機会に広域特区や道州制を」「この状況からの再起の切り札としてTPPへの参加を」「日本再生のために大胆な消費税の増税を」という議論に接する時に、この本が災害後の日本の状況を参考にして書かれたのではないかという錯覚さえ感じてしまう。なぜならば、これらは規制緩和(特区)、関税撤廃(TPP)、企業減税(消費税増税との交換)の3点セットにより、グローバル企業にとって好都合な日本社会に変える議論として、平時であれば、いま以上に喧々諤々の議論となっているに違いないからである。

こうした潮流に共通するのは、肝心の被災地・被災者の視点からの改革論が徹底的に欠落していることであり、時にはそれを糊塗(こと)するように、「創造的○○」「革新的○○」などという美辞麗句に飾られている場合も少なくない。

海外からの温かなまなざしとは別次元で進む日本での「災害資本主義」。これが、日本からしばらく離れているゆえの筆者の誤解であることを切に願っている。

 

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