全国町村会

TPP論議と政治

明治大学教授 小田切 徳美 (第2744号・平成23年1月10日)

昨年秋からのTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)をめぐる議論で強烈なインパクトとなったのが、前原外相の「1.5%」発言である。「わずか1.5%の第1次産業を守るために98.5%を犠牲にするのか」という内容は、様々なメディアで取り上げられた。この発言以降、堰を切ったように、「農業を守り、TPPに参加しないのであれば、二流国家に凋落する」という言説が流れている。

この前原発言は、全文を読むと、コメの関税率などの数値もちりばめられており、周到に準備された形跡がある。そこには、「1.5対98.5」という数字を出すことにより対立を煽り、その力で少数派を圧倒するという意図はなかったであろうか。

そうではないと思いたいが、仮にそうであれば、それはまともな政治の姿ではない。その後の主なマスコミの論調は、完全にその筋書きに乗せられたことになる。

このような対立を煽る形での世論誘導には、長期にわたり感情的対立が残存する傾向がある。問題は解決したようで、むしろ潜在化するだけである。

しかも、今回のTPPの背景には、「1.5対98.5」ではない論点がある。TPPに積極的なアメリカの対応は、アジアにおける「アメリカ外し」に対する政治的対応と理解されている。他方で、日本の参加への動きは、普天間問題で綻んだ「日米同盟」の再強化という側面をもつ。その点で、日米両国にとってのTPPは、経済的選択というよりは政治的選択の側面も強い。つまり、本当に98.5%か1.5%かが二者択一であるとすれば、日米安全保障(日米同盟)か食料安全保障の二者択一が迫られていることになる。しかし、このレベルになると、二者択一では解決できないことは誰の目にも明らかであろう。

このように物事の本質を隠し、二項対立を強調するのは、政治が貧弱になると必ず出てくる現象である。今回は「農林水産業 対 輸出産業」であるが、同類の「都市対 農山村」、「東京 対 地方」は、いつもその材料とされている。小泉構造改革時代の地方批判はその「好例」であろう。

しかし、どのような社会であっても、社会的対立のどちらかに、一方的に軍配を上げることは賢者の選択ではない。むしろ、困難な中で、二項対立を二項調和・二者共生に誘導することにこそ、成熟した政治の力量が求められている。

この2011年から始まる21世紀の新しい10年は、そのような意味で成熟した政治の時代となることを、読者とともに心より望みたい。

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