全国町村会

住民アンケートを「戸」から「個」へ

東京大学大学院 助教授 小田切 徳美 (第2528号・平成17年7月25日)

自治体が総合計画や振興ビジョンを策定する際に、住民アンケート調査を行い、「地域の声」を把握することは、いまや当然のことである。他方で、地域住民による手作りアンケートもさかんに行われている。調査設計や分析過程で、住民自らが地域に対する思いを再確認する効果があると言われている。いずれのケースでも、住民アンケートは、地域振興にとって欠かせない道具である。

しかし、そうしておこなわれるアンケートは1世帯に1調査票が配布され、回収されるものがほとんどである。このような方法の限界は、早く指摘されている。世帯を代表して回答する世帯員―それは多くの場合、男性世帯主である―の意見が、そのまま「地域の声」として集約されることになるからである。

この点で、最近筆者は、ある中山間地域の調査で、次のような経験をした。直接支払制度の集落協定について、世帯主ではない女性や若者の声を聞くと、かれらが集落協定の議論に加わることは皆無に近く、協定内容についてもほとんど知らなかった。しかし、集落協定の協議に加わった世帯主の声は、アンケートを通じて、「地域の声」として確かに把握されていた。

こうしたことから、世帯内のすべての世帯員の回答を求める「1戸複数アンケート調査」の必要性が強く主張されている。もちろん、それも早くから言われていることである。ところが、1世帯に対して複数の個人票を配布し、さらに世帯共通項目については世帯票を準備するという二重のアンケートとなること、世帯員間のプライバシーを確保する工夫(例えば個人用封筒を用意し、それを世帯単位の封筒で回収する)が必要であるなど、手間がかかることから、広がることは多くはなかった。

しかし、「住民自治の時代」は、住民の性別・世代間の意見の調整が必要となる時代でもある。世帯内(「戸」)の「個」の行動や意見の分布をただしく把握することは、行政にとっても、住民にとっても欠かせない。つまり、アンケートという道具についても、「戸」から「個」への転換が求められているのである。

そして、最終的には、地域の意志決定システム自体も、同様に「戸」から「個」を基盤としたものへ変わらなくてはならないのではないだろうか。

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