全国町村会

農政改革の「スピード感」と「安定感」

東京大学大学院 助教授 小田切 徳美 (第2494号・平成16年9月27日)

農政改革がヤマ場を迎えている。食料・農業・農村政策審議会企画部会は、8月に農業の担い手、農地、経営所得安定対策等に関する「中間論点整理」を発表した。

この農政改革は、1990年代後半より続く長期にわたる政策転換の一環ではあるが、今回とりわけ強調されているのが改革の「スピード感」である。WTO農業交渉やFAT締結の進展の中、「格段のスピードアップが不可欠」(中間論点整理)というのはその通りであろう。

しかし、いうまでもなく、改革には「安定感」も欠かせない。特に、焦点となっている担い手の経営・所得の安定のための直接支払にはそれが強く求められている。なぜならば、農産物価格支持政策の後退下で農業経営を支えるべき対策が不安定化し、朝令暮改に陥ってしまえば、確実に日本農業の脆弱化は加速化する。制度それ自体の安定化が同時に最重要課題となっているのである。

そのためのポイントは多岐にわたるが、重要なのは、@農村社会構造上の安定性(支援対象を絞り込むことが可能か否か)、AWTO農業協定上の安定性、B財源上の安定性、C国民的合意の上での安定性だと考えられる。

この中で、@、Aはその取り扱いが制度の内容を大きく左右するという意味で重要であるが、B、Cはどのような制度になっても、決して欠かせない要素である。

特にCの財源については、その確保と安定化のために制度の立法化を視野に入れる必要がある。導入後、支援対象やその水準が大きく変動しないよう、制度の「見直し」の手続きを含めて検討すべきであろう。

そして、なによりも重要なのが、Cの国民的合意である。農業者への直接支払は、農産物価格政策に比べて、誰が、どれだけ受益しているのかが見えやすい制度といえる。そのため、このような制度への国民的な理解を得ること自体が、地方を含めた政府の大きな仕事となろう。

「スピード感」と同時に、農政改革をめぐる、こうした「安定感」にかかわる議論の盛り上がりに期待したい。

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