全国町村会

もう一つの「近隣政府」

東京大学大学院 助教授 小田切 徳美 (第2427号・平成15年2月10日)

「近隣政府」をめぐる論議が活発化している。住民のより身近なレベルに地方政府機能の一部を構築しようとするこの議論は、ヨーロッパでの実践もあり、古くから議論されていた。しかし、最近では、市町村合併によって、「遠くなる市役所」への代替策として、急速に耳目を集めている。

こうした議論は、表面的な利害論議に終始しがちな市町村合併に対して、あらためて「住民自治」の側面に光をあてた点で評価できる。そして、このような「広域行政・狭域自治」を、合併下の地方自治の「切り札」と考える向きもある。

しかし、農山村の現実を考えると、この議論には詰めるべき課題が少なくない。特に問題なのは、基礎的地域単位としての集落の位置づけが希薄な点である。周知のように、農山村では、地域の重要な方途にかかわる意志決定に、集落がかかわることは一般的である。また、道路や水路等の地域資源の維持管理を集落が担っていることはごく普通に見られる。つまり、集落には自治機能が原型として存在している。

だが、こうした集落機能も、過疎化、高齢化による脆弱化が著しい。あるいは、その「一戸一票」の仕組みが、女性や若者の参画を妨げている面もある。また、20、30戸程度の集落規模では、多様な自治の遂行には限界があろう。

そうした状況の中で、集落の自治機能を旧村や小学校区単位に拡げようとする動きが進んでいる。広島県高宮町や同県・作木村でみられる「振興協議会」「行政区」が、その先発事例である。そこでは、集落の持つ自治機能を、その限界を踏まえながら、新たな地域単位で再構築することが試みられている。同様の取り組みは、中山間地域を中心に、他の地域にも存在する。農山村における「近隣政府」の具体的イメージがここにある。

こうしたチャレンジは「もう一つの役場」と呼ばれている。同時に、都市サイドから抽象的に提案されている議論に対して、既に実践段階にある「もう一つの近隣政府」とも呼ぶことができよう。

これらの活動の実践的教訓を踏まえた「近隣政府」の提案が、農山村に求められているのである。

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