全国町村会

「就農」のカタチ

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2966号・平成28年7月11日)

主業農家数の減少、耕作放棄地の増大に対し、農業の担い手育成・確保は大きな課題である。政府は、法人による広域的な事業展開や経営の高度化、集落営農による効率的かつ安定的な農業経営の推進とともに、 新規就農者の確保に向けて、農業法人への就職や、農業技術・経営を学ぶための支援策を用意している。だがそれでも新規就農者はなかなか増えない。

学生に「就農」と聞くと、日々大地と向き合い、汗水たらして土と格闘し、農産物を作って、それを出荷する肉体労働のイメージがあるようだ。農業生産の技術を身につけ、農産物を作ることが仕事と捉えられている。

だが、自らが耕す土地の特性を知り、生産する作物とその時期や量を考え、販路を検討するという、生産計画と販売戦略を立てると聞けば、「就農」のイメージは大きく変わってくる。 さらに、生産物の加工と販売、飲食店への展開といった6次産業化までを視野に入れれば、その仕事は実に多様な可能性を秘めたものとなる。商品開発、デザイン、販路開拓までを視野に入れると、 クリエイティブ産業としての「農」の可能性が垣間見える。

「就農」にあたり、多様な働き方の選択肢を提示し、可能性を提供する地域に若い世代が移り住んでいる。例えば、福島県二本松市東和では、ゆうきの東和ふるさとづくり協議会が道の駅を運営しており、 そこが地域づくりの戦略拠点となっている。地元で作られた高品質の堆肥を活用した有機農産物の販売に加え、加工品の開発や販売も担う。新規の就農希望者が訪れると、協議会が窓口となって、 仕事と暮らしについて希望を聞く。多様な農業生産スタイルを、順次体験してもらいながら、自分に合った仕事と暮らしを模索する研修期間が設けられている。農業ですぐに利益を上げることは難しい。 だが、道の駅での販売や商品陳列、加工品製造などの仕事で当面の生活費を稼ぐ手段を得ながら、農業技術や経営を学び、地域の人々を知り、暮らしを体験する仕組みが構築されている。

農業技術にとどまらない、多様な仕事経験と学び、そして生活と交流の場があることで、移住者は、地域と自分との関係を編み始める。新規就農者が商品開発や商いに関わる様子を見ていると、「就農」支援は、 もっと多角的かつ柔軟であってよいように思えてくる。

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