全国町村会

「機能」から「関係」へ

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2945号・平成28年1月11日)

昨年は「地方創生」の一年だった。人口減少を食い止め、持続可能な地域を作ることが目指され、自治体ではビジョンや計画策定が行われた。だが、各地の町村に足を運んでみると、人を呼び、 賑わいのある空間を創りだしている地域もあれば、何一つ変わりそうもないという地域もある。何が違うのか。それは、「機能」の充実から「関係」の構築へと政策の軸足を移しているかどうかにあるようだ。

この国では、戦後、高度経済成長の果実を全国に配分すべく、補助金や地方交付税を活用して、様々なインフラ整備が推進されてきた。道路、用水路、福祉施設、学校、コミュニティセンターなど、 多様な「機能」を強化して、暮らしの質を向上することが目指され、利便性の確保が図られてきた。だが、少子高齢化と人口減少、そして財政難のなかで、機能強化型の行政サービスを充実すること自体の意義が問われ始めている。 いくら施設を改修したところで、そこに人が住み続けなければ意味がないからである。

行政の現場では、「機能」を軸に、組織や法制度が組み立てられている。生産や生活機能の強化と利便性向上がその成果とみなされ、予算化が図られてきた。しかし、これまで通り、役場が何でも引き受け、 事業別に機能強化を図っているだけでは、人口減少に歯止めをかけることは難しいだろう。

移住・定住に向けて、補助金や住まいを確保する取組みは、暮らしに必要な「機能」の強化につながる。だが、いくら移住費用を助成し、住宅を整備したところで、人と人との関係が構築できるわけではない。 そこで暮らす人が安心して生活を営むために、心地よい「関係」を構築できる環境こそが求められている。

これからの地域づくり戦略は「関係」の再構築にある。近隣住民の関係、学校と高齢者福祉施設の連携、農業の担い手と都会の消費者の繋がりなど、人と人との関わりが問われている。 機能別に管理してきた行政の役割を開き、「関係」に目を向け、新たな繋がりを生むための「場」やきっかけをつくる施策が求められている。地域のなかで、そして地域の外と、しなやかな関係を構築することから、 地域が開かれ、そこに人が集う。温かいコミュニティ、心地よい関係に惹かれて、移住・定住する人は多い。新たな時代の「創生」に向けて、行政には発想の転換とともに、「関係」づくりの戦略が求められるときである。

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