全国町村会

福祉職の聴く力・語る技術

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2935号・平成27年10月5日)

地方創生の総合計画策定などに際し、地域の課題について、ワークショップ形式で住民が意見交換を行う機会が増えている。だが、初対面の人が集まり、話をするのは案外難しい。 運営側の準備も大切だが、参加する住民の側にも力量が求められる。

先日、北海道滝上町で参加した町民懇談会は、福祉に関わる若者に声を掛けたユニークな会合だった。日ごろから役場主催の会合に顔を出す人に留まらず、 幅広い年代や性別の人たちの意見を聴き、皆で議論したい。そう考えた役場職員が声を掛けたのが、高齢者や子どものケアに携わる若い世代の人たちだった。

彼らの大半は、もともと町の出身ではない。町内事業所に就職し、町民になった。だが、数年で再び他の地域に流出してしまうという。これではもったいない。 なぜ若い福祉職の人たちは、数年で町を離れてしまうのか。そこに地域の課題を知るヒントがあるのではないか。そんなことも考えて声をかけたそうだ。

このワークショップは、新旧住民、老若男女が入り乱れて、大いに盛り上がった。そこでは、彼らの聴く力・語る技術が大きく貢献した。福祉職の人たちは、業務上、 他人の話をしっかり聴くことや、チームで話し合いながら作業をすることに慣れている。初対面の住民同士で話し合いをする場面でも、日ごろの経験を活かし、聴き手・話し手として、 場の雰囲気を盛り上げていた。

参加者からは「人口約3千人の町で、ほとんど顔見知りだと思っていたが、町内にこんなにいろいろな人が居たのか。」という声も聞かれた。

暮らし方や立場が異なれば、思いつくことも違う。2時間足らずの会合だったが、100を超える地元自慢のタネが次々に挙がり、そこから、興味深い地域づくりのアイディアも出された。 地元には、自分が気づかなかった魅力が沢山ある。初めての人たちとの議論を通じて、参加者の多くがそんなことを感じたという。話し合いの場が継続的に持たれれば、実効性のある取組みが芽生えるだろう。

高齢化が進む地域で、福祉職の存在は大きい。地域のなかに、住民の方々が語りあい、温かい信頼関係を築けるような場があれば、ケアに携わる若い人たちは、住民として、 そこで暮らし続けることを選択するかもしれない。まちづくりの担い手として、福祉に携わる若い世代の可能性を垣間見るとともに、その出番を生む環境づくりが大切だと感じた。

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