全国町村会

歴史・風土・文化を今に伝える

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2839号・平成25年5月13日)

在外研究でオランダに滞在している。泥地・湿地、そして海を干拓し、国土を創り上げ、17世紀に東インド会社による貿易を通じて、巨大な富と繁栄を築き上げたオランダ。 その歴史や風土、文化を知りたいと言ったところ、地元の人が、面白い「博物館」があると、エンクハウゼンという町に連れて行ってくれた。

この町には、ゾイデル海博物館として囲まれた一角がある。海に堤防を築き、国土を作り上げたオランダの歴史と、そこに生きる人々の生活・文化・技術を次世代に伝えるべく、 漁師町を形成する住宅・作業場・学校・教会など一式が移築され、人工的な町が「博物館」という名で維持管理されている。

日本でときどき見かけるテーマパーク型の空間と異なるのは、その中の一部の住居に人々が今なお居住し、それらの施設や技術、文化、風習が、今日においてもなお生き続けていることが 分かるよう、運営上の工夫が図られていることである。

例えば、漁師とその家族が、伝統的な衣・食・住で生活を営みながら、同時に観光客に、その暮らしの一コマを解説する。さらに、縄綯いや魚網の手入れ、昔遊び、石鹸での洗濯など、 生活に必要な知恵や技術を子どもに伝えるプログラムもふんだんに用意されている。

地域の風土と、そこで育まれた技術や文化を守り、育て、次世代に伝える。そのための社会インフラが、実にしっかりと構築されている。ただ単に施設をつくって、出土品や芸術作品を 展示するだけではない。実際にそれらの展示品の背後に見え隠れする技術を使って何かを体験したり、考えたりする機会が用意されている。歴史や伝統と今日の暮らしの連続性を次世代に 伝えるための「博物館システム」が構築されているといっていい。

これら施設の整備や、プログラムの構築等は国主導で行われるが、実際の施設維持管理や、運営の工夫は、生活文化・技術が根付く地元が担う。国と地方の連携によって、地域に根付いた 技能や文化、伝統が保存・継承され、その積み上げによって、国の歴史、国民の暮らしが次世代に伝えられていく。

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