全国町村会

コンシェルジュ

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2813号・平成24年9月10日)

大きなホテルのロビーにいるコンシェルジュ。このコンシェルジュとはフランス語で「総合世話係」とでも訳されようか。元々は集合住宅(アパルトマン) の管理人を指す言葉だったそうだが、その意味が広がり、今日ではホテルで宿泊客のあらゆる要望や案内に対応する職務を担う人を指す。お客様の要望に対して、 決して「ノー」と言わないことがモットーとされる。日本でも、最近ではホテルのほか、デパートや主要な鉄道の駅構内でもコンシェルジュ・デスクが設置されるようになった。

先日、横浜市役所で、そのコンシェルジュに出会った。その名も「保育コンシェルジュ」。保育を希望する保護者らの相談に応じ、個別のニーズや状況に 最も合った保育資源や保育サービスの情報提供を行う存在として、2011年度より配置されたという。窓口に相談に来られた方々への対応のみならず、 乳幼児健診やつどいの広場など、保護者や子どもが集まる場に出向き、話を聞きながら、相談にも乗るそうだ。

利用者の立場に立って話を聞き、各種サービスについてわかりやすく案内する。サービス提供者として当たり前のことだが、長い間、申請主義を貫いてきた 行政の窓口には欠けていた発想かもしれない。横浜市が「相談係」「案内係」ではなく、あえてコンシェルジュという名称を用いたのにも理由がありそうだ。 窓口に来た人に、サービスの利用要件を解説し、申請書類を受け取るという従来型の案内対応ではなく、利用者の立場に立ち、利用者本位のサービスの在り方を 一緒に考え、お世話をするという「文化」を、役所の窓口に持ち込もうとしたのかもしれない。

保育コンシェルジュのおかげで、相談者は、多様な保育サービスを詳しく知ることができ、その中から自らのニーズや状況に合ったものを選択できるように なったという。また、市役所内部でも、住民の声を吸い上げ、次のサービスについて考える動きにつながっているそうだ。

町村役場の場合、住民は顔見知りであることも多い。それだけに、職員は住民一人ひとりの事情を、ある程度把握できているのかもしれない。だが、 改めてその声を聴き、住民の視点に立って相談にのり、問題解決に向けて、どうしたらよいかを共に考える。こうしたコンシェルジュの機能がどこかにあると、 住民の安心感は高まる。

「コンシェルジュがとても親身に話を聞き、寄り添ってくれた。身近な役所に相談して、本当に安心できた。この町に住み続けたい。」横浜市では、 こうした住民の声が寄せられているという。

行政と住民との信頼関係の再構築が必要な時代。窓口でのサービス対応について考えてみる必要がありそうだ。

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