全国町村会

「生活改善方式」の結婚式

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2776号・平成23年10月10日)

長野県佐久地域では「生活改善」の取組みが今なお推進されており、冠婚葬祭のルールが役場の広報等で周知される。

先日、南佐久郡佐久穂町職員の方から、その「生活改善方式」による結婚披露宴の招待状をいただいた。会場は町の公共施設、会費も5千円と指定されていた。

戦後まもなく、かまどの改善に始まり、日々の暮らしを合理的、かつ堅実に過ごす工夫を皆で考え、実践したのが生活改善運動だったと聞く。

長野縣教育委員会(1951)『生活改善の手引き』では、冠婚葬祭、とりわけ結婚について、「古いしきたりや見栄」により、過重な負担をもたらすことは問題だと指摘する。結婚は「人身売買ではない」ので、経費は「年収総額の2割程度が適当」。衣装も新調ではなく、貸衣裳など、そして、公民館等で婦人会の皆さんの手料理をいただく会費制の簡素な結婚式が奨励されたという。これも、冠婚葬祭の重い負担を軽減する工夫の一つだったのだろう。

だが、所得の向上、結婚式場の進出等を背景に、こうした簡素な結婚式は次第に少なくなり、「生活改善方式」の披露宴は、地元でも十数年ぶりとのことだと聞いた。

当日、会場内には長机にパイプ椅子が縦に並べられ、200人以上が参列。テーブルには紙皿・紙コップと折詰にビールが置かれていた。ここまでは話に聞いていた通りである。だが、披露宴は、合理的で簡素というよりも、むしろ、心豊かで温かい雰囲気に包まれていた。

近隣の店の数々が、新郎新婦のために地元の食材を生かした折詰料理を用意。これがとにかく美味しい。案内板や飾りは有志による手作り。受付や給仕は、野球チームの友人達がユニホーム姿で対応。スピーチも出し物も、子どもからお年寄りまで、皆が楽しく披露する。新郎新婦が地元で多くの人たちに愛されていることが伝わってくる、手作りの参加型披露宴だったのである。

今の時代、決まりごとが用意され、皆がそれに従うことで、何かが改善される世の中ではなくなっている。いまどきの「生活改善」とは即ち「地域づくり」であり、それは、地域の知恵と工夫、そして、まごころを積み上げることから始まるのだと思った。   

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