全国町村会

良いものは売れるか

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2765号・平成23年7月4日)

何年か前に、ゼミの学生が福島米のブランド化戦略を考えたいというので、「お米マイスター」を名乗る経営者に米を試食してもらい、話を聞いたことがある。「魚沼産に引けをとらないおいしいお米である。食味検査の値も良い。どうやったら価格を落とさずに売れるか。」このような学生の問いに、その経営者は次のように答えた。「良いものが売れるのではない。売れるものが良いものだ。」

素材や品質がどれほど優れていても、その商品が売れるとは限らない。消費者がそれを手に取り、利用する場面を想像し、その状況に合うように、上手に供給することが必要なのである。換言すれば「消費者を知れ」ということになるだろう。

最近、都内百貨店では、お米も数百グラム単位で真空包装され、箱詰めギフトとして売られている。都会に暮らす単身者は5キロの米も持て余す。少量単位の詰合せは、自分に合った米を探したりブレンドしたりする楽しみを生み、高値だが好評という。

生産者や産地が、消費者に媚びよと言いたい訳ではない。消費者も多様であり、そのニーズも多様である。自らの商品を理解する人たちを見つけ、その流通ルートを開拓するとともに、消費者の声を聞くことで商品の付加価値を上げられるということだ。

では、消費者とどう繋がり、販路を切り開くか。最近、首都圏では、各地の良いものを発掘し、その良さを地域の魅力と共に発信する飲食店が相次いでいる。例えば東京神田のNAMIHEI(なみへい)。「東京で食から地域を丸ごと発信」を掲げる。毎月一つの町や村を取り上げ、当地の素材を中心に組み立てたメニューを出し、地域の宣伝も無料で行う。産地と消費者が繋がり、消費地の情報が生産者にフィードバックされ、特産品や製品開発にも活かされる。良いものを良いと評価して、定期的に購入する消費者との出会いもある。こうしたネットワークの広がりに期待したい。

ところで、今年の福島米が心配だ。いくら美味しい米を作っても、それを当たり前に消費することが、当たり前でなくなりつつある。原発事故の一日も早い収束を祈る。   

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